ラブレターの効力
長年、心の奥底で、誰にも言わずに抱いていた恋心が叶った日から、はや1年。
振り返ると大きな賭けに出たなと思う。
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1年前、
この機会を逃したらもう二度と彼に気持ちを伝えられないのだろうと、昔から何かと無駄に当たる直感がそう呼びかけてきたから、彼にラブレターを書いた。
何度も、一文ごとに読み返しては消して、を繰り返した。
全てを3枚の便箋に込めた。
もし渡せなかったら、
なにかしらの理由で破られてしまったら、
そもそも会えなくなってしまったら、
the endだった。
そこですべてが終わる恋だったし、その時は腹を括ってこの恋を忘れようと思っていた。
1年前の初冬の金曜日、仕事のあとキャリーケースと彼へのお土産を持って東京駅を出発した。こそっと手紙もしのばせて。
3時間ほど、時間とお金をかけて会いに行った彼は、会った瞬間から優しかった。
彼女でもない女のために改札まで迎えにきてくれるんだから。
私のためにご飯まで作ってくれていた。
私が会いに行くためについたウソは、彼には見破られず。彼に会いに行くという本音を、どうでもいい建前で隠した。
まるで夢のような数日をふたりで過ごした。
彼を独占できて嬉しかった。
今だけは、彼の視界に私しかいないと感じていた。
ドライブ中、きれいな夕陽を見たとき、このまま時間が止まればいいのに、と思った。
何年間も、心の中にしまっては、
たまに掘り出してしんどくなって、
また奥底にしまってきた気持ち。
その気持ちにケリをつけにきた。
どんな結果になっても、全てを20代前半においていく覚悟だった。
でも、
この話にはもっと昔からの話があって。
実は、ひとりの子が小学校を卒業できるくらい何年も、彼は私を想ってくれていた。
気持ちを続けてくれていたのに、真剣に向き合えなかった私の弱さとずるさ。
その長年の弱さとずるさは、彼を苦しめたし、私に呆れるには十分すぎる理由だった。
そんな彼からしたら、私という存在は〝今更〟以外の何者でもなかった。
それでも1年前、彼は私に会ってくれた。
だから私はそんな夢のような時間を過ごしていたのだ。
きっと彼にとっては「最後の思い出づくり」なのだろうと思うと胸が痛んだ。
どんな夢も、終わりはやってくるもので。
最後の最後、家を出るときにテーブルの上に置こうと決めていたラブレターの出番が来た。
一か八か。
数日間キャリーケースの中で眠っていたラブレターを取り出し、まるで大したことないように装いながら、
「手紙書いてきたからあとで読んで。」
と、テーブルに置いた。
玄関で出る準備をしているとき彼がラブレターを手に取ったのが見えた。
あとで、と言ったのに。
「手紙とったでしょ!」
「とってないよ」
彼の上着のポケットに私のラブレターが入っている。きっと見送った帰り道に読むつもりなのだろう。もう読んでくれるならなんでもよかった。
そして、優しい彼は来た時と同じように改札まで、ではなくホームまで送ってくれた。ああ、、この人は本当にどこまでも優しい。
彼に会うのはもうこれが最後かもしれないと思うと、いつもは退屈なはずの電車の待ち時間でさえ永遠にしたかった。
いま彼がなにを考えているのかはわからなかったけど、ラブレター読んでくれるならそれで良いと、全ての想いを感じとってほしいと、
ただそれだけを願っていた。
帰り道、
どうやら彼はラブレターを読んだらしかった。
返事を書くから、直接渡したいとも。
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まさか25歳にもなって、ラブレターを書くなんて思ってもいなかった。
どれだけデジタル化が進んでも、
いつの時代も手書きの文字と文章に心が揺さぶられる瞬間がある。
高校生で終わったと思っていたラブレターの効力はどうやら人生をかけて発動してくれるらしい。
大切な瞬間こそアナログに、
トラディショナルな方法で。
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