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【でんぱ組.inc】UHHA!YAAA!!TOUR!!!2019 SPECIAL~One for all,All for fans~【みりんちゃんおめでとう】

このライブが行われる前日、同じZepp Diversityででんぱ組.incのセンター、古川未鈴が結婚を発表した。
アイドルになること、アイドルであることに特別強い思いを持つ古川が結婚という選択をし、それでいてでんぱ組.incに在籍し続けることを選んだのが、でんぱ組.incにとってもアイドル界にとっても大きい出来事であるのは間違いない。その発表の翌日に行われた本ライブは終始幸福感が漂い、ライブのサブタイトルでもある「One for All,All for Fans」を強調していた。一方で、どこか浮ついたファンの雰囲気に呑まれることのない確固たる現在のでんぱ組.incを明確に提示していたステージであったのもまた事実である。

今年6月から開催されていたツアーの特別編、二日目に位置づけられた本公演は、古川の担当色である赤色のサイリウムに彩られて開幕した。序盤から『Future Diver』『バリ3共和国』『プレシャスサマー』を怒濤の勢いで披露。はじめの15分でかなりの運動量である。満足げな表情で「ついてこれてますか?」と藤崎が問いかけると、所謂電波ソングと呼ばれるはじめの三曲とは雰囲気を変え、現体制になってからの比較的新曲である『子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡』、原点を思い返すようにずっと歌い続けられている『Dear Stageへようこそ♡』と続けた。
ここまでの5曲、『プレシャスサマー』の後に行われた自己紹介も含めてファンのコールが多い流れである。当然のようにその流れを汲むものだと思っていたファンは次に流れる『形而上学的、魔法』のイントロに衝撃を受けることになる。

アイドル特有の癖を限りなくフラットに均した、機械的とも言える歌い方。自己の存在を言及する歌詞が無表情に紡がれる。声では抑えられた感情は、6通りの踊りで明確に表出していた。一人が歌い、別の一人が踊ることによって異質なパフォーマンスを繰り広げた『形而上学的、魔法』。サビは6つの個の塊がそれぞれ別の振りを動いていた。ユニゾンは1カ所もない。アッパー系ではないものの、抑えきれない昂ぶりが叫ぶように歌われるサビはあまりにも圧巻だった。

このツアー中、メンバー二人が会場地域を巡るVTRが流れる「でんでんメモリー」のコーナーが行われていた。ツアー特別編、古川の誕生日当日であったこの日はメンバー一人一人が古川にプレゼンをする特別バージョンであった。
終始メンバーから無茶ぶりを強いられる古川。相沢とオムライスを作ったときに卵を机に叩きつけて割る姿が衝撃的であった。古川がメンバーに愛されているのがよく分かる、良コーナーだった。

VTR終了後、ステージに戻ってきたのは古川一人。改めて、と結婚発表をすると、会場は赤色のサイリウムに染まる。特別編1日目、初めて結婚を発表したときの不安を緊張した様子で語ると、「でもでんぱのファンのみんな、すごい優しいんだった!」と笑みをこぼした。「アイドルになれればなんでもいいと思っていた空っぽだった私が、みんなに愛されて変わることができたんだと思います」とファンに感謝を伝える。プライベートで育んだ愛によってファンの愛を再確認した古川はなんとも満ち足りた表情をしていた。

古川はそのまま新曲、『私のことを愛してくれた沢山の人達へ』を一人で歌い始める。結婚の流れを汲んで製作された当新曲のストレートな歌詞はこれからもアイドルとして歩む彼女の決意表明にも思えた。
最初のサビを一人で歌い上げると、ステージ後方の階段の上で5人のメンバーが出迎える。古川も階段を上り、そこに加わる。ユニゾンで歌うことが少なく、激しく踊っていることが圧倒的に多い彼女たちが横並びに密着して笑い合いながら終始ユニゾンで新曲を歌っていた。
でんぱ組.incはその異質さで評価を得ることが多く、勿論ライブも例外ではない。しかしこのとき、古川の結婚というアイドルにとってイレギュラーとも言える出来事を通して、でんぱ組.incが横並びで相互に笑みを交わすなどし、極めて普遍的なアイドルとしての姿を見せているように見えた。

結婚発表の流れで古川がファンの愛を感じると、『ユメ射す明日へ』『ファンファーレは僕らのために』によってその愛はお返しのようにでんぱ組.incからファンに届けられる。古川が改めて結婚を発表したことで、彼女の歌う歌詞が新しい意味を持った気がした。

ファンのリクエストに応える「ファンラブコーナー」では『くちづけキボンヌ』をフルバージョンで披露。根本の絞りだされるような切なげな歌い方が歌詞にマッチしていたのが印象的である。

「まだまだ盛り上がれますか?」とラストスパートに向けてオーディエンスの熱を上げると、『ボン・デ・フェスタ』『ギラメタスでんぱスターズ』『破!to the future』『でんでんぱっしょん』と新旧楽曲を畳みかけるように披露する。
「みんなからもらった強い気持ち、愛で返します!」と古川が叫び、『強い気持ち・強い愛』を力強く歌いあげる。本公演は古川の結婚発表を含めて愛情のやり取りがとても顕著に表面化していた。ツアー通してファン愛が伝わるコーナー編成、セットリストだったように思うが、寧ろ特別編のタイミングで古川が発表をしたことで愛の意味を増幅させる効果があったのではないだろうか。

本編ラストの曲に選ばれたのは彼女たちの原点を歌った『秋の葉の原っぱで』だった。でんぱ組.incでは珍しい王道バラード。長めのソロが1カ所ずつ、サビはユニゾンというシンプルな歌割り。
最後ワンフレーズを残して6人で横並びになり、おもむろにイヤモニを外す。マイクなしで6人は声をそろえて歌い上げ、静かに本編を締めくくった。
“秋の葉の原っぱで 思い出の種を風に乗せて 届けたいの”
歌い終えた後、張り詰めた空気が緩むとメンバーに安心したような表情が浮かぶ。
古川未鈴はこういうとき、本当に幸せそうな顔をする。

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『いのちのよろこび』を以てアンコールに応えたでんぱ組.inc。原始的であり、所謂アイドルらしさみたいなものが全く感じられないこの楽曲が現体制の力強さを一番よく表している。そしてこの曲もまた、愛を歌っている。

特別編二日間は『サクラあっぱれーしょん』で締めくくられた。
桜を模した季節外れのピンク色のサイリウム。これが意味するところが祝福であるのは間違いないだろう。それは古川が新たに進む幸せへの“出航”の祝福であり、でんぱ組.inc冬の幕張メッセ二日間への“出航”の祝福でもある。
これからも彼女たちの快進撃は止まらないのだろう。とても希望を感じる公演なのであった。

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