【ネタバレ有り】ウォーリアーズ「最後の希望」で救われた主人公と血縁の話

野生に暮らす猫たちの生活を描いた小説・「ウォーリアーズ」。原盤はアメリカで大ヒットし、6巻で1期を為す物語は現在7期まで発売されているほか、ガイドやマンガも出版されている。
日本語版では今年、4期6巻が発売された。

さて、この4期6巻である。冊数にして24冊目となる「ウォーリアーズ 最後の希望」では、まだ翻訳されていない5期以降も含めたすべてのウォーリアーズシリーズを通して、ひとつの区切りを付けるような巻となった。

期ごとに異なったクライマックスがあるウォーリアーズシリーズの中でも特に期を越えて重大な意味をなす4期6巻について、そしてウォーリアーズがえがく物語について、主人公の在り方と血筋に焦点を当てて解き明かしていこう。

ウォーリアーズ概要

まず、ウォーリアーズとはどのような物語か、について簡単に説明を加えておこう。
前述したように、ウォーリアーズは野生に暮らす猫たちの生活をえがいた小説である。猫たちは境界線を明確にして4つの部族に分かれ、森の中などにこしらえたキャンプを拠点にして生息する。一族には長である〈族長〉、その補佐である〈副長〉、怪我をした者の手当や先祖からのお告げを受け取る〈看護猫〉がおり、そのほかの猫は生後6ヶ月から〈見習い〉として訓練を受ける。見習い猫は一族の十分な力となりそうだと認められれば〈戦士猫〉に認められる。子猫から見習い、見習いから戦士になるにあたっては名前が変わり、さらに族長は名前に「スター」がつき、9つの命が付与されるきまりとなっている。
猫たちは古くから定められている〈戦士の掟〉にしたがって生きている。以下、参考までにあげておく。

戦士の掟(抜粋)
・自分の一族を守る。命に代えてでも守ること。別の部族の猫と友情関係を持つことはできるが、自分の部族への忠誠心を変えないこと。 いずれ部族同士で戦うことがあるため。
・他の一族の縄張りに侵入したり、狩りをしたりしないこと。
・長老と子猫が、見習いや戦士たちよりも先に食事をすること。特別な許しがない限り、見習いたちは長老に獲物を運ぶ前に食事をしてはいけない。
・獲物を殺すのは食料だけのため。それ以外の理由で獲物を殺してはいけない。スター族にその獲物の命への感謝の意を届けること。
・子猫は6ヶ月になったら見習いとなって修行を開始すること。
・副長は、族長が死んだ、あるいは引退した時、新しく族長になる。
・満月の夜は、4つの部族が一斉に集まり、休戦となる。戦いは許されない。あくまで平和的に行うこと。
・なわばりの境目は毎日しっかりパトロールし、マーキングをすること。侵入してきた猫がいれば戦って追い払うこと。
・戦士なら、苦しんでいたり危険に陥っている子猫を見て見ぬ振りをしてはいけない。ほかの部族の子猫でも同じく。
・族長の言葉が戦士猫の掟である。
・正しい戦士は相手を殺さずに戦いに勝つ。相手が掟を破る、または自分を守るとき、やむをえない時以外相手を殺してはいけない。
・戦士は、飼い猫の甘い生活を断じて拒むこと。

ここに定められている戦士の掟に沿って、部族猫は秩序を保って生きていく。

大まかなストーリーと主人公の整理

ウォーリアーズは期によって主人公が異なっており、ストーリーが最終的に辿り着く結末も異なる。

下の画像はこの記事で名前を出す登場猫を家系図で整理したものである。

うぉりあ図-1

1期は、飼い猫ラスティーが野生にかえるところから始まる。
ラスティーは部族の見習いとしてファイヤポーの名を授かり、やがて戦士となり、副長にまで昇進する。飼い猫出身をよく思わない猫に敵視されながら、裏切り者をどう追放するか考えをめぐらせながら、ファイヤハート(ファイヤポーの戦士名)は戦士としての生活をおくる。やがてファイヤスターと名を変え、族長となった彼は裏切り者の息の根を止め、部族を危険から守り、1期は幕を下ろす。
1期は、巻の終わりに名と立場を変えることからも考えられるように、6巻で怒濤の成長を遂げたファイヤスターの成長物語である。飼い猫から部族に戻り、族長へと昇進する。生活感が溢れた描写の中には、多くの猫の恋愛模様や生活の様子が描かれており、物語の流れは完全にファイヤスターの昇進に依拠したものでじゃないが、一番の大きな流れはファイヤスターの成長だ。

2期では、ファイヤスターの娘2匹と、1期でファイヤスターと敵対していたタイガースターの息子、計3匹が主人公となって物語を進める。2期以降では、物語は特定の猫の成長を主軸にしなくなる。2期では、部族が住処を大移動することをめぐり、お告げを受けた主人公一行が旅に出、そして部族は大移動をする。

そして3期と4期では複数の猫を巻き込む、そして部族の今後がかかるひとつのお告げを解明すべく、2期の主人公の子供たち、すなわちファイヤスターの孫にあたる者たちが主人公となる。

1期のファイヤスターの成長物語を軸にして、世代を継ぐように主人公を継ぐかたちでウォーリアーズシリーズは進行する。2期以降はお告げに導かれるように物語は進み、語り手は複数匹にわたる。

ファイヤスターの主人公性

描かれるものも世代も期によって異なるが、ファイヤスターの子孫であるという主人公同士の共通点がウォーリアーズにある種の繋がりを持たせているという認識は、間違っていない。ただ主人公であるだけなら、ファイヤスターの子供たちでなくてもよかったのである。はじめの6巻が1匹の成長という特殊な構成をしているのは、ウォーリアーズがファイヤスターの物語であることを暗示している。唯一成長のさまが描かれたファイヤスターは、2期以降語り手ではないものの、ウォーリアーズの主人公を降りてはいない。それを確実にしたのが、4期6巻だった。

ファイヤスターは2期以降、語り手としての登場はほとんどなかったが、それでも確実に主人公の立場を降りてはいない。それには、4期6巻に至るまでにもいくつかの根拠がある。

まずは1期だけの特別な構成である。1期に、6巻にわたってファイヤスターの成長を見守り続けた読者は、以降語り手としての主人公が変わったときもファイヤスターへの意識はどこか特別なものとして存在するだろう。
そして、それを補強するように、主人公はファイヤスターとの血縁関係にある。主人公はファイヤスターよりも年下なのにもかかわらず、そして彼が族長なのにもかかわらず、内縁にあるという理由でファイヤスターは主人公の身近な存在として登場してきた。また、主人公はしばしばファイヤスターの血が流れているということを意識させられる。あるときはお告げの内容によって、あるときは他部族が口にする嫌味によって。
さらに、1期の後半でファイヤスターが族長になったことも2期以降のファイヤスターの存在に関係している。1期では彼は「飼い猫から戦士になり、やがて族長になる/なった猫」として描かれる。2期以降では、これが「主人公が属する部族の長」として描かれることになる。ファイヤスターは族長として、部族の進むべき道筋を提示する役割を持つ。これは結果的に物語の進行を担っているということにもなる。ファイヤスターは作中で語りこそしなかったが、いつも部族の長として存在感を放ち続けていたのある。

4期6巻では、1期で活躍し死んでいった猫が多く登場し、ファイヤスターと同期に近い、年長の戦士たちがファイヤスターと会話する描写が何度もあった。2期以降の若者の視点ではこうした様子がえがかれることが減っていたため、読者は自然と1期のことを思い返し、懐かしさをおぼえながら物語上での時間の経過と彼らの成長に思いを馳せるだろう。

そしてこの巻で、ファイヤスターは命を落とした。
3期からほのめかされていた戦いに、主人公たちは勝利を納めたことによって4期はひとつの区切りをつけてきれいに完結した。ただ、ウォーリアーズシリーズは、1期から語られてきた一番の主人公を失ったあとも続いていく。2期以降も主人公だった彼を失った物語には何が残るのか。それには、ファイヤスターや主人公たちの血縁が関係する。

主人公があぶり出す全篇を通した第二の主軸

ファイヤスターが語り手でなかった2期以降、物語の主人公は「ファイヤスターの内縁」としてしかその猫である理由を持たなかったのだろうか。

もちろん、2期の主人公はお告げを受け取り遂行する存在として、3、4期の主人公は特別な力を持つ存在として主人公である理由はあった。しかし主人公はファイヤスターの血縁である必要はないのである。ウォーリアーズをファイヤスターの物語だと思えば妥当ではあるが、では主人公はファイヤスターのために立てられた存在だったのか。

もちろんそうではない。ここには主人公同士の共通点が関係している。

主人公のほとんどの共通点としてファイヤスターとの血縁があるが、ファイヤスターも含めた主人公たちには、もう一つ重要な共通点がある。
それは、部族内で完結されるべきとされる部族猫の血筋において難を持っているということである(掟にあるように、飼い猫に至っては断じて遠ざけるべきとされている)。

1期の主人公、ファイヤスターの生まれは飼い猫である。2期の主人公の1匹であるブランブルクローは部族を滅ぼそうと目論見続け、部族を裏切ったタイガースターの息子。(そしてそれを強調するように彼は父親の容姿にそっくりである。)そして4期のアイヴィープールとダウウィングの親はホワイトウィング、ファイヤスターの甥の子供だ。この甥もまた、飼い猫生まれでしばらく戦士の掟に従順できなかった問題児であった。
2期の主人公であるファイヤスターの娘――スクワーレルフライトとリーフプール――と、3期の主人公であるその子供については少々込み入っている。当初、読者やほとんどの登場猫は3期の3匹を、ブランブルクローとスクワーレルフライトの子供だと疑わなかった。しかし3期の中盤で、実はリーフプールと別の部族の猫から生まれていたことが発覚するのである。

リーフプールは当時看護猫であった。看護猫が恋愛をすることは掟で禁止されているし、加えて異部族との恋愛関係も固く禁じられている。3期の主人公たちは、二重の違反によって生まれてきているのだ。掟に反し、隠し続けていたのは2期の主人公のうちの2匹であり、3期の主人公たちはそれをしばらく知らずとも別の部族の血が流れている。

ファイヤスター自身にはなんの非もないが、奇しくも彼の血縁にある主人公たちはなんらかの血縁の難を抱えることになった。更に、彼の一番の親友である猫は、異部族の雌猫と恋に落ちた上、のちにべつの飼い猫を部族に入れるきっかけを作った。

それぞれの期で、主人公たちは自らの血縁について向き合わざるを得なかった。飼い猫、裏切り者の息子、掟に反した親から生まれてきた子供たち。それぞれ血縁に潜む悩みのタネは異なっていたが、ファイヤスターはそれを象徴する存在であったと言っても過言ではない。シリーズはファイヤスターが飼い猫から野生に戻るところからはじまっており、さらに彼から広がる家系図の間で主人公が引き継がれていくからだ。加えて読者は、ファイヤスターがウォーリアーズ幕開けの6巻に渡って「飼い猫」だと多くの猫に揶揄されてきたのを知っているし、それはどの期と比べても一番激しいものだった。

血のつながりを重視する部族において悩ましい血縁の象徴となったファイヤスターは、4期6巻で再びウォーリアーズシリーズの主人公として1期の敵と戦うことになる。敵が率いる集団は、曰く「汚れた血」が流れる者を嫌う。

この戦い――ファイヤスターにとっての最後の戦い――は、1期から続いてきた敵対関係に終止符を打つことを目的とした彼のための戦いであったと同時に、血縁をめぐる戦いでもあった。
4期6巻で描かれた大きな戦いは主人公の部族の勝利となった。だが最後のファイヤスターの一騎打ちについては、息の根を止めたのはファイヤスターであったものの、その彼も直後に命を落としている。彼は汚れた血を嫌う敵に完全勝利をしたわけではない。血縁をめぐる争いにおいて、その血筋の正しさを示したわけではないのだ。彼は、最後まで掟に従い、戦って命を落とすことで、いわば異端である自分たちの血縁を肯定したのである。自分の子孫たち血筋を身を以て肯定することで、作中でも象徴として語られることが可能になり、主人公としての役割を果たしたのだ。

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