でんぱ組.inc『ねぇ寿司』配信解禁に寄せて
でんぱ組.incが1stアルバム『ねぇきいて?宇宙を救うのは、きっとお寿司…ではなく、でんぱ組.inc!』の配信を解禁した。
2011年にリリースされた本作は古川未鈴、相沢梨紗、夢眠ねむ、成瀬瑛美、跡部みぅの5人体制で制作された唯一のアルバム。メンバーが変わるたびに再録される「Future Diver」の初期バージョンや、最近ではほとんど披露されない「電波圏外SAYONARA」といったレアな音源が収録されている。
配信解禁日となった2021年12月14日はちょうどリリースから10周年の記念日。OGも含めメンバーがSNSで思い出話に興じるなど、ファンのみならずメンバーにとっても一大ニュースとなった。
そんな1stアルバムの解禁だが、メモリアルなアルバムの配信は現在のでんぱ組.incにとってもいい作用をもたらした。
2021年は5人の新メンバーを迎え入れ、今までにない大きな変化を遂げたでんぱ組.inc。そのさなかに1stアルバムを配信開始することで、でんぱ組.incという変わらぬ母体の存在を強調し、10年前と繋がり続けていることを示した。
多くのファンが聴き慣れているであろう、比較的最近収録されたバージョンの「Future Diver」「くちづけキボンヌ」を今回配信された10年前のバージョンと聴き比べると、前者の歌唱のニュアンスが10年前に形作られたものであり、都度新しく加入したメンバーや当時から歌い重ねるメンバーによってアップデートされてきたものなのだと分かる。2019年に夢眠が卒業した際にメンバーカラーを受け継いだ根本凪は同時に「Future Diver」の落ちサビも引き継いだが、根本が影響を受けた夢眠の萌え声による愛らしくも力強い歌い方は1stアルバムで既に成立していた。
2021年5月からは、スピンオフユニット・チャペの泉によってそれまで披露の機会が少なかった初期の楽曲がライブで披露されることも増えており、このタイミングで聴く1stアルバムは過去の名作として以上に味わい深いものがある。
1stアルバムがリリースされた10年前とは、ステージの大きさもそこに立つメンバーも違う。しかしながら、配信を解禁し手軽に聴ける状態にすることによって、実際に聴かないと感じ得ない年月の蓄積とその蓄積の上にある10人体制のでんぱ組.incの魅力を改めて引き出すことに成功した。
でんぱ組.incはこれまでも、原点となる10年前のアルバムを様々な形でアップデートさせ活動に組み込んできた。
根本と鹿目凛の加入が発表された2017年の公演『JOYSOUND presents ねぇもう一回きいて?宇宙を救うのはやっぱり、でんぱ組.inc!』は、見て分かる通り公演名がアルバム名のオマージュになっている。さらに、2020年に行われた配信ライブ『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE FINAL!!~ねぇ聞いて?宇宙を救うのはきっと……~』では1stアルバムを曲順通りに全曲披露する演出が行われた。後者の公演では配信の機動力を活かし、彼女たちの拠点であった秋葉原の街中やディアステージ内でライブを行い、グループのはじまりを彷彿とさせるような演出を行っていた。
はじまりの地への回帰意識を失わなかったでんぱ組.incだが、1stアルバムリリース10周年イヤーとなった2021年、その傾向はより実体を持つことになる。
新メンバーが加入した3か月後、藤咲彩音、小鳩りあ、愛川こずえの3人によってチャペの泉が結成されると、1stアルバムに収録されているもののその後収録されることのなかった「わっほい?お祭り.inc」「Kiss+kissでおわらない」などをカバー。でんぱ組.inc加入10年を迎えた藤咲と、ディアステージでの店舗経験が豊富な小鳩、古くから踊ってみた動画でのコラボでメンバーとの付き合いがあった愛川。長きにわたってでんぱ組.incに深い理解を示す3人により、10年前の楽曲に新たな解釈を加えている。
さらに、アルバムの配信が解禁される前月には「Future Diver」の10周年バージョンが配信リリース。編成が変わるたび真っ先に歌い継がれた楽曲であり、リリースされた音源にもいくつかのバージョンが存在しているが、周年というメモリアルな形でリリースされたのはこのときが始めてだ。現在のでんぱ組.incのにぎやかさと豊かな性格を表したものとなっているが、その現在らしさも古いバージョンがあってのこと。このような動きの中で発表されたのが、1stアルバムの配信リリースだった。
2011年、アルバムリリースから2週間足らずで跡部が卒業し、同時に藤咲と最上もがが加入。この地点からグループのヒットへの道のりが語られることも少なくないが、そこで語られる活躍も、2011年までの活動や1stアルバムで土台を構築したからこそだろう。
2022年1月現在、1stアルバム発売当初在籍していたメンバーは古川と相沢のみになり、グループの半数が2021年に加入した新メンバーとなった。初期の楽曲やコンセプトを受け継ぎ、ブラッシュアップしながら進化を続けるでんぱ組.incの直近の動向にも注目したいのはもちろんのこと、今後5年10年と蓄積された足跡がどのように歴史のうまみとなってそのときのでんぱ組.incに影響をもたらすのかにも興味がそそられる。これから一層目が離せなくなりそうだ。
面白いと思っていただけたら記事のスキやシェア等もよろしくお願いします^^