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先生聞いて。守れたはずの挑戦権

中学3年生の3月、アメリカ行きのチケットが手から滑り落ちた。春休みに1ヶ月間、現地の高校で学べるプログラムの選考に落ちた。

唯一の試験である英語の出来は完璧だ。どうして?先生に理由を尋ねた。

ちょうど2年前だった。

12歳の私を待っていたのは中学受験の失敗。中高附属ではない私立の小学校に通っていたため、当たり前のように受験をした。

意志なんて、なかった。

半ば強制的に挑んだ試練で敗者になる。悔しさとやりきれなさで自分を失った。

世の中は冷酷だ。新たな門出を桜が祝ってくれている。

望んでもいない「おめでとう」を浴びるうちに、暗闇の迷宮に入って行った。

いち早く抜け出そう。そんな努力さえ怠った。

うまくいくはずもなかった。学校ではプライドが邪魔をする。休み時間の相棒は、決まって英語のテキストだ。

私たち1組のことを全く好きでもないのに、クラス代表をやってみたりする。そしてクラスの問題を列挙する。

そう、私はイヤな奴だ。

夏休み明け最初の登校日の教室は、思い出話で持ち切りだ。

教室の隅でポツンと座る私に話しかける人はいない。

「アイツ、優等生ぶってマジウザい」
後ろから聞こえた。

クラス代表として皆に意見を求める。
反応は、ない。

音楽会の練習で気づきを共有するために手を挙げる。当てられない。

チッ。横から舌打ちが。
「あんたには聞いてねーよ」

2年生になるとSNS上で悪口を書かれるようになった。

フォローしていた”友達”のいいねで、タイムラインに流れる悪口に、心が削られていく。

先生にSOSを何度も出した。どうやら私は空気だったようだ。

長く暗い1年が終わろうとしたこと、アメリカ研修の話が舞い込んできた。自由の国に憧れていた。

逃すまい。選考に参加した。

「1年で体重が8キロ減るのはいかがなものか」

愕然とした。ストレスで体重を落としていた。

8ヶ月間、ずっとSOSを出し続けた。

1度でもいいから私に振り向いてくれていたら、体重はここまで減らなかった。いじめも終わっていた。アメリカにも行けた…。

涙が静かに頬を伝った。やり切れなさと絶望からだった。

昨年、自分を重ね合わせたいじめ問題があった。

秀岳館高校のサッカー部では、入学が決まっていた男子生徒が上級生からの暴行で、入学辞退に追い込まれた。

彼の声や異変に誰かが向き合っていたら。

あの時の私のような惨めな思いや経験は、誰にもして欲しくない。だからこそ拾いたい声がある。

「少しだけ聞いてください」

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