②再生少女”Death”(連載恋愛小説)はじまり後編


「んん…。」
「ん、ん…、ここは、どこ?」


 カイの歌声で眠っていた私が目を覚ますと、どこかのお家にいるようだった。隣には、カイが寝ている。ということは、ここはカイのお家?


「ん、ん、おはよ。スズ、よく寝ていたね。」

「カイのお家に連れてきてくれたの?」

「うん、スズの家の中、小人たちが騒がしくて…。」


 確かに、小人たちと暮らすのは楽しいけれど、熟睡が難しい。


「スズ、しばらくはここに居るといいよ。好きに休んで。…寧ろ、俺は居てくれると嬉しいから。」


 顔を背けたカイの頬はほんのりと赤くなっていた。


「小人たちが心配するかもしれない…。でも、もう少しここに居るね。」

「うん、ありがとう。」


 カイは、安心したように笑った。


「なんだか、まだ眠たい…。」

「いっぱい寝たらいいよ。」


 そう言ってカイは、私の頭をそっと撫でた。


「ありがとう。」


 私は、さっきより深い眠りについた。


 どのくらい寝ていただろう。ずっと長い間、寝ていた気がする。とても不思議で、少しだけ怖い夢を見た。小人たちが泣いていて、真っ暗の大きな何かが、この世界に迫ってきていた。メイドたちは絶望した顔で、他の皆んなも俯き、キャノル様も冷たい瞳で泣いていた。
 カイも泣きながら、私に何かを言っている。キャノル様が最期に、何か光を放って…。

 最期…?そんな言葉、聞いたことがないのに。


 ゆっくり目を覚ました。重い瞼を擦る。


「カイ…?」


 隣で寝ていたはずのカイがいない。私が寝てばっかりで、どこかに行っちゃったのかな。


「カイ!いないの?」


 カイは、どこかに出掛けたみたいだった。ずっと寝ていたせいか、体が痛い。なんとなく外の良い空気を吸いたくなって、あの野原へ向かった。

 野原は相変わらず、美しかった。


「あ、そうだ!」


 カイがお家に帰ったら、花冠をお返しにプレゼントしようと思った。
 カイは、喜んでくれるかな…?

 どんな花にしようか、黙々と花冠を作っていた。辺りは段々と暗くなっていった。


「あ、そろそろ、帰らなきゃ。」


ん、なんで?何だか、外が暗くなってきて、寂しくて、怖い…。
 カイ…、1人にしないでよ。


「スズ!!」

「カイ、来てくれ…。」


 カイ…?カイの体は、何だか薄く、今にも消えそうだった。


「スズ!やっぱり、ここに居たんだね。スズ、落ち着いて聞いて欲しい。」


 カイは、涙を一つ流した。


「もう、ここには…、居られない。俺たちの居場所は、奪われる。ここで、皆んな消える…。」

「どういうこと?」

「スズが見た真っ暗な未来、…真っ暗になるみたい。」

「え…。」

「俺たちは、もうすぐ消える。スズも、もう…。」


気が付かなかった。私の体も薄くなっている。


「…カイ!これ、作ったんだよ、花冠!カイに似合うと思ったの。」


 カイが、私を強く抱きしめた。手に持っていた花冠は床に落ち、カイは、鼻を啜った。


「ありがとう、ありがとう、ありがとう…。」


 その言葉を聞いて、カイを胸いっぱいに感じた。夢が、透視で見た未来が、本当に起こる気がした。


「ねぇ、カイ…、私たちもう会えないのかな?」


 カイが、泣きながら懸命に言葉を吐き出す。


「…キャノル様が、俺たちを、俺たちの心を違う星の”イキモノ様”に変えてくれるって!だから、きっと会えるよ!会えるよ!」

「”イキモノ様”?」

「俺たちよりも、ずっと苦しみを知っていて、だからこそ、美しくて儚いものだって。」


 真っ赤に泣き腫らしたカイが、震えた声で呟く。


「…だから、スズ、会えるよ、会える、絶対に。」

「そっかぁ…。カイと同じ”イキモノ様”がいいな。」

「…。」


 カイの脈打つ鼓動が微かに聞こえる。


「でもね、カイ、私ずっとカイに会えなくなる気がして…。」

「そんなの、そんなの…、知るかよ!」


 カイが、私を強く抱きしめる。とっても強く、大きな体で。


「ごめんね、会えるよね、そうだよね…。」


 カイ、いつの間に大きくなったんだね。


…会えるよ!会いに行くよ!俺はずっと…ずっと…約束…

カイ、ありがとうね。大丈夫だよ。

…。

カイ、笑って。一緒にダンスを踊ってロロに乗ってご飯を食べて、これからも私のお家に来てね。じゃないと、朝起きられないかもしれないから。

…。

カイ…。


 ゆっくりと暗闇に包まれていく中、私たちは小さな光の粒となって、遥か遠くへ消えていった。この世界の桃源郷は、真っ暗で何もない。無の境地へと変化していった。

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