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デキる女刑事

ねえ、ればぞうさん。
佐藤部長(仮名)の髪型どう思う?

一般職の50代女性係長の視線の先には、ちょっとだけやんちゃな印象の女性警察官。

女性係長は、こうも続ける。

『注意するなら警察官同志の方がいいと思うんだけど。』

係長が言う女性警察官の階級は巡査部長。当時の私の階級、巡査。つまり、新人。
(・・・え、私?もしかして、私に注意しろって言ってる???)


戸惑いながら、聞いてみる。

『私が言ったほうがいいんですか・・・?』

係長『うん。ちょっと茶色すぎるから言ってみて。私が言うと角が立ちそうだから。』


全く意識すらしていなかった、佐藤巡査部長の髪の色。
どうやら、係長にはかなり茶色に見えるらしい。


(一般職とか警察官とか関係ないのに。自分、係長じゃんか~。単に見た目がやんちゃな感じで怖いから私に振ったんだろうな。あー、巡査の立場でなんで上司に注意しなきゃいけないんだよー。)


なんて思いながら、重い腰を上げる。


警察官は、確かに身だしなみには注意が必要だ。
それは、警察官になった当初から徹底的に叩き込まれている。


ところが、今の所属、刑事部。
私服の刑事。


制服だと確かに茶髪は浮くけど、私服の刑事ならある程度は日常になじまないと、そもそも仕事にならない。


あまり話したことのない上司に話しかける上に、髪の毛の色を注意しろと言う無理難題。正直、私が注意すべき内容ではない。なんなら、係長から注意したほうが絶対にいいだろう。

でも、これは、まぎれもなく係長からの指示だ。
勇気を振り絞って佐藤部長のところに向かう。


係長は頑張れと言わんばかりに私を見ている。


(・・・えー。修行かよ。)
と思いつつ、インポッシブルなほどではないが、ミッションを遂行すべく、部長に近づく。


『あの…。髪の色がちょっと明るいみたいなんです…。』

ちょっとだけ、自己保身のために【私が言ったんじゃないけど】体をにおわせる。


巡査の私から気に食わない言葉をかけられたら、当然ムッとするだろうなと思いながら、勇気を振り絞り話しかけた。


おそるおそる反応を見ようとすると、すかさずこんな言葉が返ってくる。

『ちょっと明るくしすぎたかなって思ってたんですよね!
なんか、すみません。注意なんか、したくなかったですよね!』

この一言に、佐藤部長の人柄がギュッと凝縮されていた。

めちゃいい人じゃん。
そして、絶対この人仕事デキる人だ。

そんな直感とともに、一気に佐藤部長のファンになった私。


後輩の巡査から髪の色直した方がいいなんて、普通だったら言われたくないはず。そもそも、警察官とはいえ、私服の刑事だ。プライドもあるだろう。


私にも事情があって言ってきたんだろうという気遣いとともに、相手を嫌な気持ちにさせない明るい対応。

デキる刑事は、やはり違う。

実際、この佐藤部長。一緒に仕事しててもめちゃめちゃ仕事ができたのだ。下手すると、その辺の年季の入った警察官よりも格段に仕事のできる女性刑事だった。一気にファンになった私。
それ以降、彼女の動向は常に意識するようになったのは言うまでもない。


結局、なにが言いたいかって、視野を広く持っているひとは、言葉を額面通りに受け取らず、裏にある言葉を一瞬で見抜く。それでいてスマートな対処をするってこと。

それがたとえ後輩や部下からの言葉だったとしても。きちんと言葉をくみ取ってくれる人は、仕事ができるのだ。


次の日、佐藤部長の髪色は、若干落ち着いた茶色になっていた。
直したかどうかわからないくらいの茶色に。

そんなところも、好き。

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