異質の世界が混在する空間に魅せられて ~ 錯視的に拡がる多層空間を描くアーティストたち
創作を開始した2006年~2010年までの初期作品づくりに影響のあった画家については、前回の記事「オリジナル、それとも模倣、・・」で、すでに述べました。
それで今回は、2011年以降の作品制作に何か決定的な影響があったと思えるアーティスト(表現者)たちの作品を取り上げます。
西洋人の古典絵画が多かった前回と違って、現代日本のアーティストをお二人、まず紹介します。
建石修志:皮膚感覚に伝播する錯視的空間の拡がり
この方の作品を初めて目にしたのは高校生の時で、本屋で立ち読みした、次の本からでした・・・・
そして、その作品:
( 画像は、美術出版社「新技法シリーズ:鉛筆で描く」よりコピーして
レタッチしたものです )
この創り手:建石修志氏は、初期・中期においては、微細かつ幻惑的な鉛筆画にて他の追随を許さぬ、禁断の闇世界ともいうべき独自の作風で異彩を放っておられましたが、後期には色彩も取り入れた作風も展開されておられます。
私がこの方の描く作品世界についつい引き込まれてしまうのは、ひとえに
その「茫漠として境界の消失した空間の錯視的拡がりと動き」なのです。
視ることがそのまま空間の動きと拡がりを感じ取ることでもあるのです。しかもそれには、皮膚感覚にも伝播するような「エクスタシー」も伴っているのです。肉筆ゆえの凄さ!です。
そして、この方の影響を明らかに受けて制作した作品が、以下です;
三尾公三:屈折多層化した空間
パソコンとphotoshopがまだ世に無い時代に、「エアーブラシ」という1980年代当時の流行ツールを駆使して創出された作品なのではと思います。
写真的な描写力で、女性モデルの配置と屈折多層化した空間構成、配色の視覚的見事さを感じます( 実は他にもっと魅かれる作品があるのですが、ネット検索できませんでした )。
そして、以下に私の2015年オリジナル作品:
三尾氏の作風に大きく影響を受けたとするならば、画の構成について発想を得たと思います。
次は、西洋人を二人。
ダリ : 異質の世界が混在する多層空間
シュールレアリスムの代表的天才画家S・ダリには、ガラという年上の妻がいました。ガラはもともとフランスの詩人P・エリュアールの奥さんだったのですが、ダリの妻となると、才能あるダリを世に売り出す努力をします。ダリにとってガラは「美の女神ミューズ=芸術家に霊感を与える女性」だったので、彼女をモチーフにした作品を多く描きます。
たとえば、以下に挙げるダリの代表作の一つ「ポルト・リガトの聖母」は、全く異なった別世界が一挙に入り込んだ多層な空間となって見事な調和と
美の光景が広がっている、言いかえると、自分と空間の一体化したような、そんなイメージの作品です。
そして、ダリの、この「異質の世界が同時に存在するような多層空間」を何とか自分なりに描いてみたのが、以下の作品です;
真打登場!
ユルズマン:私の唯一の「師匠」
以上に取り上げた平面画はすべて画家によるものでしたが、私がフォトショップを使って「このような作品を創りたい」と直截な、決定的な影響を受けた写真家がいます。
その人は、アメリカ人のジェリー・ユルズマン JERRY UELSMANN です。60年代から活躍しており、フィルムによる多重露光の作品を暗室で創り続けてきた人です。
過去の記事でも取り上げていますが、他の表現者のいろいろな作品を見続けてきた私にとって、白黒のシンプルな構成でありながらハッと目が覚めるような鮮烈なイメージを放つ彼の作風は他に比するものが無い別格の芸術であり、ユルズマンは、私が「弟子」として見習いたかった唯一の「師匠」のような存在でした。
彼の作品にも、錯視的な空間の多面的拡がりがあります。
まとめ
以上に挙げたアーティスト:表現者たちは、とにかく、その昔に出会ってから何十年も経っているのに、今見てもちっとも見飽きないし、新たな想いで
見直すことの出来るという点が、他の多くの優れた画家たちとの「違い」でしょう。美術史的価値や21世紀の現代美術論などとは全く無関係に、個人的にどうしようもなく好きな「お気に入り」なのです。
私が作品を創るとき、「何を描くか」という点では、「魂の救済、心の闇、宗教的なエクスタシー、身体感覚の視覚化」などのキーワードが浮かんできます。
ではそれを「どう描くか」という点になると、さまざまなイメージが錯綜しては新しい表現を求めて混乱しがちです。
そんな時に、いわば原風景回帰として、お気に入りの彼らの絵のイメージが思い出されて、絵の進むべき方向へと軌道修正してくれるのです、・・
私の絵の進むべき方向=
「異質の世界が混在して多層化した空間の拡がり」を平面上に錯視的に描く(いずれは立体化したい)