残機99のスワンプマン

 魔王の指先から、鋭い稲光が走る。
 それは光線となり、狙い違わず俺の体を撃ち抜いた。
 光線が命中した箇所から体が消し炭と化す。ものの5秒と掛からず、俺の肉体は崩壊した。

「レム!」

 俺の名を叫ぶ仲間の声が聞こえる。

 ……全身が消し炭なのに、どうして耳が聞こえるのかって?
 それは俺が死んだ瞬間、そのすぐ隣から新しい俺が復活したからだ。

【残機5→4】

 頭の片隅に、無機質な音声が響く。それに舌打ちをしつつ、俺は拳を構えた。
 ただのいち村人に過ぎなかった俺が、勇者様ご一行にくっついて魔王討伐なんて大命を背負う事ができる理由がこれだ。
 死亡しても、意識をそのままに新しい体へ復活できる。装備の類いは台無しだが、命が助かるなら儲けものだ。

「はっ!」

 眼前の魔王へと拳を振るう。その攻撃はあっさり防がれるが、俺の背後から仲間が魔法を撃つ。絶対零度の凍気が、拳を交えた俺ごと魔王を氷漬けにした。

【残機4→3】

 即座に新たな体で復活した俺は、勇者と共に攻撃を仕掛ける。
 だが魔王の名は伊達ではない。氷漬けからすぐさま脱し、マントを翻して衝撃波のカウンターを放つ。一緒に凍った元の体が、余波で砕けた。

 世界の命運を掛けた戦いは、一進一退の攻防が続いていた。

◆ ◇ ◆

 勇者達の旅してきた道を、一列に進む人影があった。
 あるモノは頭が割れていた。
 あるモノは手足が喰い千切られていた。
 あるモノはぐずぐずに腐り果てていた。
 それは命無きモノの列であった。

 人影は口々に呟く。

(いいなあ)
(イイナア)
(あイつだけ)
(勇者の仲間だト持て囃されテ)
(苦シい思いヲしなイデ)
(俺達ヲ置いてけぼりにして)
(行っテしまっタ)
(寂しイなア)
(ズルいなア)

 それらの肉塊は、みな同じ顔をしていた。
  “レム”と呼ばれた若者と同じ顔を。

 数多の復活を遂げた彼の『残りカス』が列を成し、やがてひとつの場所に集結した。

(続く)

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