彼女と蝶々と世界崩壊
学校の昼休み。
耳の奥でキーンと響く耳障りな音。僕はそれを我慢して、幼馴染みの咲に弁当を渡した。
「ほら、今日お昼ごはん忘れたんだろ」
「え、いいの?! ありがと~!」
子犬のように目を輝かせる彼女を尻目に、僕は世界崩壊を食い止められた安堵に胸を撫で下ろす。
ここで咲が弁当を食べられなかった場合、お腹を空かせた彼女は購買部へ向かう途中で階段から転げ落ちて他の生徒とぶつかり相手に重傷を負わせ、その事に激怒した相手の親がたまたま新興宗教の教祖だったためにその信者(数千万人)が学校を相手に暴動を起こし、やがて世界を巻き込んだ宗教戦争に発展してしまう。
どういう訳か、彼女のちょっとしたトラブルが世界を崩壊へ導いてしまう。まるでバタフライエフェクトのように。そして僕には、何故かその未来が予測できるのだ。
この間など、学校に遅刻しそうになった咲が通学路でトラックにぶつかり、事故を起こしたトラックがたまたま積んでいた大量の栄養ドリンクが流出し、それを摂取した下水のドブネズミが進化して未知の病原菌を撒き散らしパンデミックを引き起こす未来が見えた。
あり得ないような話なのだが、しかしそういう映像が見えてしまったのだから仕方ない。
こうして僕は彼女を遠因として発生する世界崩壊を日々食い止めているのだが、当の咲はそんな事露知らず。今も僕が作ってきた手作り弁当を幸せそうに頬張っている。
「やっぱり亨は優しいね、こないだは寝坊しそうになった私をわざわざ起こしに来てくれたしさ」
「いいよ、僕が好きでやってる事だから」
だって起こさないとバイオハザードが起こるから、とは言えない。
満腹になり満足げにお腹をさする咲を見て、さて僕も昼飯を食べようとする。
その刹那。
再びキーンという耳障りな音が聞こえた。
僕の安堵を返してくれ。
「嘘だろ……?」
脳裏に映ったのは、巨大なタコの化け物と対峙する咲の姿だった。
《続く》
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