東京ドーム | #青ブラ文学部
野球好きのあの人と東京ドームへ行ったのは何年前だっただろう……
たった一度だけ、二人で野球観戦した東京ドーム。
会社が購入している販促用のボックス席が社内のくじ引きで当たったからだった。
新宿から総武線で7駅目の水道橋で降り、少し歩くと目の前に白くて大きな屋根が見えてきた。
「野球場に屋根あるってすごいよね」
ドームの中に入ると耳が詰まる感じがしたけれど、すぐに慣れて気にならなくなった。
「天井すげぇ~」
試合が始まるまで、天井を見上げ、あそこはどうなってるんだとか、たるんでいるところにボールが入ってしまったらどうなるんだろうとか、そんな話ばかりしていた。
試合が始まると、二人で楽しみにしていたビール樽を背負った売り子さんから生ビールを入れてもらいグイグイ飲み始めた。
ボックス席はマウンドが近くて、キャッチャーミットにボールが入った時にすごい音がして臨場感たっぷりだったけれど、外野席で賑やかに楽しんでいる人達と違い、周囲は静かに大人しく観戦しているので、なんだか気持ち悪かったことを覚えている。
グイグイ飲んでいるうちに、トイレで席を外したあの人がいつまで経っても戻ってこなくて、心配になって通路へ出てみると、小さいモニターで試合を見ていて笑ってしまった。
「いつもテレビで見慣れてるからここがいいや」
結局、その後はボックス席へは戻らずに、二人でビールを飲みながら小さなモニターで試合を観戦した。
試合の内容のことは正直覚えていない。
あの頃はただあの人と一緒にいる事が幸せだったから。
「次は外野席で騒ごうね!」
※フィクションです
山根あきらさんの企画に参加します。
よろしくお願いします。