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塩浴 | #金魚鉢 | #シロクマ文芸部

金魚鉢へ目をやると、金魚はひっくり返ってぷかぷかと浮いていた。口をパクパクさせて苦しそうだ。

「大変だよ!金魚死んじゃう!」

サトルは慌てずに金魚鉢に手を入れた。

「水温低いな… 塩浴だな…」

-- エンヨク?何それ……

それからのサトルは、流れるように素早く動いている。

バケツに水道水と少しのお湯を入れ、温度計で温度を調整しながら、氷砂糖にも似たカルキ抜きを数粒放り込んだ。

「バケツは10リットルだから……」

スマホの電卓画面を出して、なにやら計算を始めた。

「何計算してるの?」

「塩浴の濃度だよ」

-- で、エンヨクって何?

金魚は苦しそうにパクパクしている。
私は金魚鉢の前では無力で、ただ金魚を見守ることしかできなかった。

キッチンから塩を取り出して、計量スプーンでそれを計ってバケツへ入れた。

-- そうか… 塩水のことなんだ。

捨てるプラスチック容器を探し、それに金魚と金魚鉢の水を多めに入れた。バケツに容器を持つ手をそっと鎮める。

「手じゃダメなの?」

「金魚は人の手の温度で火傷やけどするんだ」

具合が悪くても飼い主に触れてもらえない金魚は、まるで今の自分のようだ。

サトルとは随分前からギクシャクしだしていた。その手にも触れてない。

バケツに移された金魚は動かなくなり、パクパクもしていない。死んでしまうのかと涙を流し、やはりただ見ているだけの私は無力だった。

バケツを前にずっと泣いていたが、次にバケツの中を覗くとひっくり返っていたはずの金魚が元の状態に戻っている。

パクパク苦しそうだったのに、いつものようにバケツの中で泳いでいた。

「うわぁ!すごい治ったね!」

「別れよう」

「え?!」

「そういうところ嫌なんだよ」

「わからないよ!」

「わからないならいいよ」

-- わからない……

突然のことでわけがわからず、バケツの中で元気に泳ぐ金魚を見ながら、大声をあげ泣き続けた。

(了)


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小牧幸助さん
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