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On the Road (オン・ザ・ロード)

先日、10代から20代にかけて私の愛読書だったジャック・ケルアックの『路上(オン・ザ・ロード)』を英国人の友人も愛読書にしていたことを知った。

この本の影響で私は放浪に無駄な憧れを抱くようになり(?)、その後、私なりにいろいろな旅を重ねてきたが、友人は70年代にこの本を読み、フランスの大手メディアの記者の仕事と妻子を放りだしてアメリカに渡り、助手席の地図だけを頼りに無目的な大陸横断をくり返し、フランスに戻った後は奇跡的にメディアと妻に許されて元の生活に戻ったという筋金入りだ。

私より3回り近く年上の彼は、数年前にがんを患って手術を2回受け、先月は心臓がおかしくなって緊急手術を受け一命をとりとめたばかりだが、スマホもGPSも格安航空券もAirbnbもなく、行き先の情報もほとんど手に入らなかった不自由さが当時、旅をより豊かにしていた部分もあるように感じる。

パンデミックや戦争で旅行がしづらくなり、当たり前になっていた旅が少しだけ特別なものに戻っている今、この本を読んでみると新しい発見があるかもしれない。

今はカタカナで『オン・ザ・ロード』となっているが、わたしが持っていたのは、もっと前に同じ河出文庫から同じ青山南さんの翻訳で『路上』というタイトルで出版されたものだった。

おしゃれな表紙になり、「ボブ・ディランに『ぼくの人生を変えた本』と言わしめた」とキャッチーなコピーも入って生まれ変わったが、郷ひろみさんがヒロミ・ゴウさんになったようなものだろうと思っていた。しかし、よく見ると新訳(といっても、2010年の出版)とあったので、読み直してもいいのかもしれない。

そして、この新訳版が出た1週間後、同じく河出から同じ青山南さんの訳で『スクロール版 オン・ザ・ロード』という本も出ていたことを知った。

「スクロール版?」ときょとんとしている人のために説明しておくと、当時、原稿は全てタイプライターで書かれていたが、紙をいちいち交換していると言葉の流れやリズムが妨げられるとの理由から、著者のケルアックは紙をつないで巻物のように長くしたものを使ってこの本を書いたことで有名だ。スクロール版とは、そのオリジナル巻物原稿を基にした翻訳ということらしい。

普通版との内容的な違いは、登場人物が実名で書かれていること(アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズなどの著名な小説家も登場する)だそうだが、小説として楽しむ分には実名で読む必要性はまったく無いし、この時代の文学が好きな人なら誰が誰なのかは普通版を読んでも一目瞭然なので、コアなファンや研究者向けなのかなと思う。

ちなみに、このスクロール原稿は2002年頃、アメリカ人のフットボールチームのオーナーが、文学史上最高値と言われる240万ドルで落札した。

一方のわたしは最近、原文のキンドル版がアマゾンで257円で販売されていることを知り、こちらを買った。

スクロール原稿の100万分の1の値段で読めるので、もう日本語で読んでいるという人や英語が苦手ではないという方にはこちらがお薦めだ。いちども読んだことないという人は、まずは日本語で読んでみるといいと思う。

旅は行かれなくても、思いを馳せるだけで楽しい。

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