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【BWTC】僕の脳波を100秒間=1,000円で買い取ってもらった話


脳波データを収集してアートとして売買する世界。

時は2022年、ついにここまで来たのだ。



1ヶ月ほど前にとある方のリツイートで、このツイートが目に入った。


『脳波買取センターをつくります』


僕はこの文字列に雷を打たれるような衝撃と共に、全身に鳥肌が立った。
普段は異常なほどに出不精な僕だが、好奇心には逆らえない。
一度湧いてしまった好奇心を理性で抑えることはできず、指数関数的に爆発して膨張し続ける。

会期中の休みの日を確認してスケジュール帳に書き込む。

『11:00~19:00 脳波買取 @アーツ千代田3331』

背筋がゾクゾクっとしたと同時に口角が不敵な笑みをつくる。

後日、来場者が多くなることを見越して、運営が事前予約を受付開始した。僕は迷わず希望の日時を予約した。


アプリを通じて事前に予約したときのメール
『脳波買取の事前予約』『脳波買取チケット』の文字列が気持ちいい
チケットアプリの画面
今時は当然のようにチケットがQRコードで管理されている
スマホが普及し始めた10年前と比較しても確実に技術が進歩している


さて、脳波買取当日を迎えるにあたって考えていたことがある。

それは脳波測定中の100秒間に何を思うか、である。

僕の脳内で何よりも複雑なことを考えようと決めていた。

そしてそれに合致するのが以前noteで1週間だけ公開していた『たった25年の人生を振り返ってみた』という名前の遺書である。
今回を機にまた少しの間公開しておこうと思う。2万文字くらいある支離滅裂な文章であるため読むには値しない。もっと良い人生の時間の使い方をすることをオススメする。


たったの25年の人生なのだが、死を意識せざるを得ないほどに疲弊しきっていて藻掻き苦しんでいた。

今となっては完全に健康的な精神状態であり、病院のお世話にもなっていないため安心してほしい。
現在通院しているのは研究室時代に患った慢性胃炎くらいである。

この遺書には僕の25年の贖罪が詰まっている。
その贖罪と死への覚悟、僕の脳内にあった邪魔な全てを吐き出してある。

脳波を測定するならこれが一番適しているし、この遺書をアートに昇華したらどんなものを描き出すのか単純に興味があった。

BWTCが投げかける社会実験的な作品に対して、僕は1年かけて贖罪をしたためた遺書を返す。
コンセプトが喧嘩しているような気がするが、ここは一つ僕のワガママとさせていただきたい。

脳派測定中に考えることは制限されていない。


脳波測定前日、僕は今この記事を書いている。

そして遺書を読み返して当時の考えをリフレインする。
寝る前にこれを読むと決まって過去を思い出して嫌な夢を見るのだ。
精神状態を劣悪にさせてできる限り遺書を書いたときの自分に近付けて脳波を測定したい。


当日。いつもより目覚めが悪い。
寝付くのにも1時間以上掛かってしまった気がする。

そしてやはり嫌な夢を見た。
嫌な夢の内容はいつも決まっていて、人生で一番愛していたのに粗雑に扱ってしまった方と上手くいっていた世界線の夢を見る。
今回は当時2人で行くことが叶わなかった旅行に行っていた。

後悔と過去の自分への恨みが脳内で暴発しそうになるが、なんとか朝食を口の中に押し込めて栓をした。

精神状態は悪くなりつつも頭の中には冷静な部分も混在していて、脳波測定には良いコンディションだなんて思っている自分もいた。


会場に向かう間も何度もnoteを読み返す。

当時の僕とシンクロしてきた。
過去に犯した過ちのすべてを思い出してきた。
過呼吸気味になり発作を起こしそうになりながらも、何とか会場に到着する。
自己暗示的に落ち着かせる仕草を決めているため、こういう時には非常に役に立つ。

会場は凄い。とにかく凄いの一言に尽きる。
私が愛して止まないアニメ作品『PSYCHO-PASS』に出てくるシビュラシステムの本体に出会ったシーンような心地だった。
近しいものを見た記憶があると思って引っ張り出したのがそれなわけだが、脳という部分しか一致していないようにも思える。

あととにかく涼しい。
秋葉原駅から10分近く炎天下を歩いてきたため極楽であった。
朝11時頃の秋葉原の気温は手元の温度計で38℃。
ここに来るまでにスポーツドリンク1Lを飲み干していた。

暗く写したくてシャッタースピード落としたら
真っ暗になってしまった写真

僕はさっそく持ってきていたフィルムカメラで写真を撮りまくる。
近未来的な作品を前時代的なフィルムに収める。
このときの写真はまた今度現像した時に公開したいと思う。

とりあえず今回の記事ではスマホもしくはデジタルカメラで撮ったものを載せている。

いよいよ無機質で不気味に佇む『脳波買取センター』その本体に正対する。

タッチパネルに浮かぶキーボードでイニシャル、年齢、性別を入力する。
最後に100秒間考えることに対してタイトルを付ける。

タイトルは”ISHO”とした。遺書である。

下部にカチューシャのような形をした装置が収納されている。
取り出すと装着方法が画面に映る。
電極が額に接するように装着すると、電極装置が2回振動して正しく装着されたことを知らせる。

そしてカウントダウンが映し出され計測が始まる。

ここからは100秒間、自由なものを考える。

先の記事を初めから思い出す。
幼少期のDVから母親の精神疾患と数ある自殺未遂。
小学校から中学校へ。自らが犯した過ちの数々を反芻する。
そして高校へ。人生で一番大切にすべき存在のこと。
目を瞑って今までの25年の人生を思い出していると、目と額の痙攣が止まらない。
最後の10秒辺りでは目に涙が溜まってしまっていた。

自分の脳波が映し出される。
何とも不思議な感覚だった。
画面を閉じるとデータがレシートのように吐き出され、自動販売機のお釣り返却口のような場所から100円玉が10枚支払われる。

こちらに書いてある番号を会場内のモニターへ入力すると、大画面に出力される。

さらに会場内ではその場でA1サイズのレプリカを印刷して買うことが出来る。
価格は700円。
A1サイズのポスターないしアート作品と思えば非常にお得であると思うし、何より僕はさっき1,000円を頂いてばかりだ。
迷わず印刷することを選んだ。

印刷してくださる係員の方に「ちなみにどんなことを考えていらっしゃいましたか?」と聞かれた。来場者との何気ないコミュニケーションの一環であろう。
何て言おうかと思ったがタイトルに”ISHO”なんて書いてしまったし正直に話そうと思い、簡潔に事の顛末を伝える。
「それはなんというか、かなりヘビーなものでしたね」なんて言われてしまったのだが、それはもう至極当然で、初対面の方に「実は1年前に鬱気味になっててその時に遺書を書いたのですが、それと共に今までの人生を思い出してました」なんて伝えるものではない。
レプリカを受け取るまでも少し会話を交わして、最後には「今はとてもお元気そうで良かったです」と声を掛けていただいた。


そして会場内には脳波データに価格を付けている方がいる。
どのような基準でもって価格を付けているのだろうか。
こういった部分にもAIによる判断が組み込まれていたら面白いかもしれない。人間の生体電気たる脳波をアートに出力し、それを機械が価値を判定して価格を付ける。実に面白そうな内容である。
が、今回のBWTC Trade Weekではあくまでも人が価値を決めている。
人が購入するのだからごもっともである。人それぞれの感性に従って価格が変わるというのもまた面白い。

ちなみに僕の脳波データは以下のサイトからA1サイズで購入することができる。

意外とA1サイズは大きくなくて部屋に飾るにはちょうど良いように思える。
とは言え、どこぞの誰かも分からない人間の25年間の苦悩を描画した脳波アートを買う方はいるのだろうか。

脳波の利用価値、脳波の収集における倫理性、脳波データをアートに昇華できるのか。

そんな様々な問題提起をしている体験型アート展『BWTC Trade Week』は8月7日(日)まで開催されている。
僕と同じように近未来なものへの好奇心が旺盛な方、脳波データを測定してみたい方などは、感染症対策をしっかりと行った上で熱中症にも気を付けて足を運んでみてほしい。
僕はチケットを予約してから行ったが、なくても全く問題なく無料で入ることはできる。

この夏に誰も体験したことがない、この先も体験できるか分からない『あなただけの脳波データのアート』をあなたも作ってみませんか?


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