わたしが夏を好きなのは。
自転車に乗った夏の夜。
ぬるいそよ風が頬に触れたと思うと、
上着を1枚ずつ上から剥いでいくかのように、からだじゅうを包み込んでいく。
耳のうら、首筋、脇腹、腰、膝のうら、
冬の間は外気に触れないようなところまで、そよ風は忍び込んでくる。
大好きな人にこちょこちょ擽られているような、
おかしさと、小さなしあわせを感じられるのが好き。
父は、擽りの名人だった。
小さなわたしはいつも、父の部屋を覗いては、擽りの餌食となってた。
背後にわたしの気配がすると振り返り、
仕事の途中だろ