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【詩#01】思い出を思い出すための詩 2022.05.15

雨降りな日々が続いて
春が間もなく終わるころ
わたしは となりの席の人から
若い整骨師の肖像という名の詩集を借りた

ページを開くと古びた本の匂いがして
わたしの心は躍った そして
ページをめくるとやさしく見えて難解な詩は
わたしに読まれることを拒んだ

印刷された言葉は美しく
よくわからないけれど
とても静かな時間が流れた

詩は親しき友で
詩を書くことは初恋だった
自分で綴る言葉はわたしを癒やし
励まし、勇気づけ 
未成年だったわたしは、いつしか大人になり
親になった
詩は友で 初恋は続いていた 
それまでずっと

初恋が終わったのは
忙しさのせいだと思っていた
でもそれは 

この世で一番愛しい子が
言葉を話せないかもしれないと 

そう 告げられて 
見るものすべての色が失われて
美しいと思っていたものが
美しいと感じられなくなった
わたしは深く 深く絶望した
愛しい子とわたしのあいだに
言葉が介在できないかもしれないという
未来に

息が止まりそうで
呼吸を止めるかわりに
書くのをやめた


ずっと忘れていた 
きっとずっと幸せだったんだ





2022年に16年ぶりに書いた詩。
子どもが1歳半のときに、発達障害おそらく自閉症スペクトラムであろうと指摘され、もしかしたら我が子は言葉を話すことができないかもしれない…と思ったのでした。
そしてそれを期に、わたしは詩を書かなくなりました。

長い間、忘れていました。
詩を書いていたことも、書くのをやめたことも。

ある日、職場のとなりの席の方から詩集を借りました。
ふいに詩を書いていたこと、書くのをやめたことを思い出しました。

リハビリがてらに書いた詩。
自閉症スペクトラムの子どもは、ちょっとおしゃべりな19歳になりました。

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