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最凶のディガー・Mさんの話

ディグる、っていう言葉がありますね。

『DIG(掘る)』って単語からきてるスラングでございまして、何か特定の分野をひたすら掘り下げて追求することを指すんですけども、コレはもともと70年代後半に生まれたヒップホップ用語です。

初期のヒップホップはサンプリング主体だったんで、そこで元ネタとして古いジャズやファンクが再評価されたんですね。DJの人とかが、段ボールに詰め込まれた一山いくらのジャンク品のレコードから、使えるビートはねえか、カッコいいフレーズはねえかと血眼で探してたワケです。

身を屈めてレコードを漁るその手つきはまるで『DIG(掘る)』ようで、そのうち、なにかを追求し、ひたすら掘り下げていくことをディグる。って表現するよーになったワケですね。

さて、世の中にはとんでもないディガーがいるもんであります。

僕の友人に古書店の店員さんがいるんですが、その人はもうメッチャクチャマンガに詳しいんですよ。とにかく死ぬほどマンガ読んでるんです。僕もそこそこマンガ読む方ですけど、もうその人には全く敵わないですね。僕が読んだことあるマンガは全部読んでるし、いつか読もうと思ってるマンガも全部読んでるし、作者もタイトルもまったく聞いたことないマンガもとにかく全部読んでるんですよ。

でも、その人に言わせれば『自分はぜんぜん』だそーで、そこの古書店の社長はもうとんでもないほどマンガ詳しいんだって。とにかくあんまりにも詳しすぎるもんだから、客として来てた古書店でスカウトされて、それで社長まで上り詰めたんだそうです。


でも、その社長に言わせれば、『仕事柄、ものすごいマニアの人によく会う。その中では自分はせいぜい並ぐらい』なんだそーです。世の中にはとんでもないバケモノがたくさんいるものだなぁと怖気を振るうばかりであります。

で今回はね、ここからが本題なんですけど、札幌に住んでるMさんという友達がいます。見た目は何つったらいいのかな、丸坊主でガタイが良くて眼光も鋭くてですね、中南米の武闘派集団という感じのイカツいルックスをしてらっしゃるんですが、メッチャクチャいい人で、しかももんのすごいディガーなんですよ。マニアが見たら卒倒するようなコレクションが部屋に死ぬほどあるワケ。

『ジガ・ヴェルトフ集団時代のゴダールのBOXセット』とか『超神伝説うろつき童子のBOXセット』とか『クレクレタコラのBOXセット』とか『光戦隊マスクマンのBOXセット』とか『キャッ党忍伝てやんでえのBOXセット』とか『スーパーミルクチャンのBOXセット』とか『子連れ狼のBOXセット』とか『ヤホワ13のBOXセット』とかバンドデシネとかチベット仏教の本とか風忍の初期作品とかナショナルジオフィック社の写真集とかたけしの挑戦状の攻略本とかね、ちょっとでもサヴカルチャーを齧った者であれば、一歩足を踏み入れた瞬間に“ヤバい!!”ってわかるコレクションが部屋中にうず高く積まれているんですよ。


で、Mさんがソムリエよろしく、『これ知ってる?』とか『こういうのがあるよ』って矢継ぎ早にいろいろ紹介してくれるんですけど、もう本当に全部知らないし、全部超おもしろそうなの。

行くたびに毎回驚愕しかないですね。あんなに面白いことしかない場所知らないですよ。

僕がどれだけMさんのコレクションに首ったけかっつうとね、こないだ札幌帰ったとき、六日連続でMさんち遊びに行ったぐらいですからね。もうそんぐらい面白いんですよ。最終日に至っては泊めてもらったし。本当にお世話になってますいつも。

で、ディガーっていうのは普通に市販されてる以外のモノもいっぱい持ってるもんでございまして、『どこでどうそれを知って、どうやって手に入れたの?』っていうアイテムもいっぱいあるんですよ。

どっかの印刷会社の社長やってるおじいさんが完全に趣味で描いた、セクシー美女が宇宙で大暴れする系のSFマンガの同人誌とか持ってるんですよ。

Mさんに言わせればこの人は『普通に有名』だそうで、『このおじいさんの作品はマニアの中で高値で取引されてる』って言ってました。女の子の絵とかめちゃくちゃやばいんですよ。こち亀の女キャラをさらにスタイル良くした感じ。もう悪夢一歩手前みたいな。で、話は面白いとかつまらないとか以前に、もう信じられないぐらいコッテコテな展開を延々と続けてるんですよ。なんか曲がり角でぶつかった美少女が実は転校生だったみたいな、そういう展開を普通に、逆にとかナシでマジにやってるんですよ。『これが俺の思う最強のエンタメだ!』っていう作者の本気度がビシバシ伝わってきてすげえ痺れましたね。

あと全身を蛍光マーカーで偏執的に塗り潰されたデッサン狂いまくりの美少女が絡む百合同人誌とか。マジで色彩がすごくて、フェティッシュというか、リヴィドー全開で蛍光マーカーで塗り潰してるのがすごい伝わってくるんですよ。たぶん作者の人は、子供の頃はじめて蛍光マーカー使ったとき、精通に近いエロスを感じたんじゃないかと思いますね。その瞬間でずっと止まっちゃったまま描き続けてるんだろうなって、そんな想像をしちゃうぐらいの圧倒的な筆圧なのね。

それとね、本当に医療関係者しか買わないみたいな、超分厚くて何万もする神経医学の本とか持ってるんですよ。

『最近発見した裏技なんだけどさ、こういう医学書って毎年アップデートされて出版されるんだけど、そうしたら前年度の版は一気に安くなるんだよね。でもそんな一年ぐらいのアップデートの範囲なんてさ、医療関係者なら別だけど一般人には関係ない領域だからさ、こういう本買うときは古い版を探して買ったらいいよ』って言ってたんですけど、マジでその裏技知らないことすぎるじゃないですか。活用する機会あるかどうかかなり怪しいラインじゃないですか。


他にも『全編人形劇のポルノ映画』とか『80年代のハンガリーのサイケなアニメ』とか『メモ帳の切れ端に小さい字でびっっっしり怪文書が書かれたヤツ』とかね、もう本当に驚愕するようなコレクションがいっぱいあるんですね。最後のに至ってはもう作品とかですらないですからね。街で拾ったらしいです。

で、Mさんは知識量もハンパなくて、『クリスチャン・マークレーは一瞬ラモーンズにいた』とか『細野晴臣は裸のラリーズ加入が内定してた』とか『宮崎駿はカリオストロ作ったあとに西海岸行ってて、初期ディズニーのレジェンド系スタッフと合作アニメ作るプロジェクト進めてた』とか、『◯◯ってアニメのプロデューサーはのちの声優ブームとかの仕掛け人でもあるんだけど、拳銃とヘロイン密輸で逮捕されて干された。そのプロデューサーは宮崎駿とマジで仲悪かったらしい』みたいな、もう知らなさすぎる話を延々としてくれるんですよ。僕そういう話めちゃくちゃ好きなんでそりゃもう盛り上がる盛り上がる。

こないだ行ったときもね、六日間連日連夜いろんなもん見ましたけどね、『カリフォルニアの新興宗教団体から取り寄せた自主制作映画のVHS』がかなりヤバかったですね。通販で海外から取り寄せたって言ってました。70年代にサンフランシスコの路上でシンセの弾き語りしてたスペース・レディっていうミュージシャンがいるんですけど、その人が入ってる宗教らしいです。知らないことすぎる。

あとヤソスね。ヤソスっていう、ヒーリングミュージックっていうかニューエイジミュージックの始祖的な存在がいて、その人は映像も作ってるらしいんだけど、それも相当ヤバかったです。ラッセンが幻覚剤やったみたいな感じの世界観。やっすい極彩色といなたい没入感がなんとも心地よい。『あー、いいですね』ってMさんに言ったら、『よかったらこれ持っていって』ってヤソスのレコードを差し出してくれたんですけど、同じレコードが四枚あるんですよ。聞くところによるとMさんは家に遊びに来た人にヤソスの映像を見せて、気に入りそうな感じだった人にはレコードを配布しているそうなんですよ。だから布教用として同じレコードを複数枚ストックしているらしいんですよ。布教用でレコード買うオタク初めて見たよ。もうなんかね、愛が深すぎて狂ってるんですよ。


最後泊まったときとか、12時間ぐらい二人でずっとヤバい映像観まくってたんですけど、そんときMさん、『どっちがいい?』って言ってレッドブルとモンエナ出してきましたからね。エナドリ飲んで家で映像観るってヤバいじゃないですか。そのテンションで映像に取り組んでるんですよ。

で『あしたのジョー2』を一気見しようって話になってずっと観てたんですけど、朝6時ぐらいにさすがに限界来て、『ちょっと寝ますね』とか言って寝ちゃったんですよ。で、11時ぐらいに起きたら、Mさんはもうとっくに起きてて、もう自分の部屋でヤバい映像を観まくってました。本当に僕が知る中でも最凶のディガーだと思います。




↓問題のヤソス



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