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サブスクにあるJB全部聴く

サブスクにあるJBを全部聴いてみようと思った。

とくに理由はない。しいて言うなら夏だったからだ。

誰もが知っている通り、夏はラヴの季節であり、チャレンジの季節であり、そしてレヴォリューションの季節である。

この夏、ラヴもチャレンジもレヴォリューションも無縁だった僕はせめてチャレンジの項目だけでもクリアするべく、サブスクにあるJames Brownの楽曲をぜんぶ聴いたのであった。

JBはディスコグラフィー本にも『オリジナルアルバムは駄曲が多いので聴く必要はない。』と書かれてしまうほど、オリジナルアルバムが良くない。

まぁこれは古き良きブラック・ミュージックにありがちな傾向で、必殺のシングルが1〜2曲あれば、あとは適当なセッションや陳腐なバラードで帳尻を合わせればいい。というような大らかな感覚なのだけども、JBはとくにその傾向が強い。

『捨て曲』という言葉があるが、JBのオリジナルアルバムは8割方捨て曲で構成されている。基本的にアルバムトータルとしてのクオリティを鑑みるという姿勢がないのだ。

かの名曲『セックス・マシーン』は、コンサート終了直後にバンドメンバーが乗っているバスに、ふだんは一人だけプライヴェート・ジェットで移動するJBがいきなり現れ、“新曲ができたからオマエら楽器弾け”などと喚いて突如アカペラで歌い出し、その足でレコーディングに移行したというが、まぁ、とにかく、思いついたらすぐに出したい人だったのだと思う。

JBのファンを自称するひとは地球上にまぁ一億人ぐらいはいると思うのだが、たぶんそのうちの98パーセントはベスト盤とライヴ盤しか聴いていないと思う。それで十分すぎるぐらい十分とされているのがジェームズ・ブラウンという音楽家なのである。

そうと知りながらも僕は聴こうと思った。

何も起こらなかったこの夏に、とてつもない苦行を成し遂げようと思ったのだ。

僕が使っているApple Musicには現在、59枚のアルバム、19枚のシングル&EP、16枚のライヴアルバム、44枚のベスト盤があるが(当然カブリも含む)、これを約二ヶ月かけて全部聴いた。本当に全部聴いた。

もちろんこれは氷山の一角にすぎない。

地球上のあらゆるレコード/CD/カセットの情報がマウントされたウェブサイト『Discogs』でJames Brownを検索してみると、1,134枚のアイテムがあった。まぁジャケ違いでほぼ同内容の編集盤がほとんどを占めるのだろうが、にしてもサブスクに存在するJB作品などは一部分にすぎないであろう。

とまれ、まず結論から先に申し述べておくと、『まぁ、時間の無駄だったな』と思った。

いや、正確に言えばそんな悪くはない曲も結構あるのだが、『これは隠れ名曲だな!』と思える曲はほっとんど、なかった(個人の感想です)。

JBを全部聴く時間があるなら、細野晴臣とかミスチルとかうしろゆびさされ組を全部聴く方が後の人生に役立つのではないかと思った(あくまで個人の感想です)。

とはいえ、それでも『えっ、JBってこんな曲あったんだ』という発見もチラホラあり、このような苦行を己に課した意味も少しはあった。今記事では、僕がこの苦行を通して得た幾ばくかの成果を、読者の皆様にフィードバックしたく綴るものである。


ちなみに、手前味噌にはなりますが、『いやJBって誰? ロッテの新外国人選手?』という御仁はまず、以下の記事をお読みください。JBがどんぐらい偉大な音楽家なのかっていうのをすっげーわかりやすくまとめてます。






つーワケでイッてみましょう、一曲めは、『サムワン・トゥ・トーク・トゥ』。

1978年作。

1978年ってーとディスコ華やかなりし頃で、50〜60年代にデヴューしたソウル・シンガーが軒並み苦境に陥った時期です。あのアレサ・フランクリンでさえこの時期には辛酸を舐めました。『ラ・ディーヴァ』というディスコ・アルバムをリリースし、『アイム・ディスコ・クイーン!』なんてシャウトしてましたが、チャートも振るわず、未だにCD化されていないという始末です(ふつーに今聴いたら超いいアルバムですけどね)。

我らがJBも時代の潮流に乗って果敢にディスコに挑戦しておられますが、やはり全然売れませんでした。この楽曲が収録された『テイク・ア・ルック・アット・ゾーズ・ケイクス』はファンにも評価が低く、2017年までCD化さえされてなかった超不景気な作品です。

しかしながら、この楽曲はなかなかどうして良曲です。

まさしく『JBってこんなんあったんだ〜!』と思わされる西海岸系のスウィート・メロウ・ソウルで、浮遊感あるバックトラックやコーラスがなんとも心地好い。アタック控え目な演奏もチルい。

しかしながらJBのヴォーカルがあまりに濃厚すぎるというか匂いがキツすぎるので、『ヴォーカルがJBじゃなかったらなぁ』という本末転倒なことを思ってしまいます。


 


二曲めは、『ユーアー・マイ・オンリー・ラヴ』。

1981年作。これも各種配信やサブスクにはマウントされているけども、CD化されていないアルバム。

ディスコ時代末期のJB。

多作なJBにめづらしく、この年にスタジオ・レコーディングなされた作品はこれのみです。JBなりにじっくり時間をかけて取り組んだということっすかねえ。

過去曲をアーリー80sの軽いサウンドで焼き直したりしていて、試行錯誤のほどがうかがえます。

で、この曲も『JBってこんなんあったんだ〜!』と思わされる、シカゴテイストのメロウ・ソウル。

ファンは基本JBにこういうのを求めてないので全然人気ないっぽいですけど、普通にいい曲だと思います。うまい表現が見当たらないんですが、こういう路線のJBは丁度いい。ヴォーカルも強すぎないし。ダラッと流しとくのにピッタリくる。




三曲めは、『コールド・スウェット(1969ヴァージョン)』。

1969年作。JBがピアノ・トリオをバックに歌いまくるJAZZ盤で、JBのディスコグラフィーの中でも抜きん出た統一感を持つ作品。

これは普通にいいアルバムだと思います。

『JBって歌上手いよね』という、もう地動説なみに当たり前すぎて意識することが全くない絶対的事実をまざまざと体感できる良盤であります。

で、この曲、『コールド・スウェット』は、プレ・ファンク期のキラー・チューンで、数多あるJBのベスト盤にはほぼ必ず収録されている人気曲でありますが、実にイイ感じにJAZZに落とし込んでおります。

DJでかけてもよさそーっすね。

この翌年にも『ソウル・オン・トップ』って言う、ビッグバンド・ジャズをバックに歌ってるアルバムを出してるんですが、それも結構面白かったです。




四曲めは、『アイ・ラヴ・ユー・フォー・センチメンタル・リーズンズ』。

1976年作。古くはナット・キング・コールのヒット曲であり、サム・クックのカヴァーも有名な一曲。

この曲は前述のJAZZアルバムでも取り上げているんですが、それのリメイク版であります。カヴァーのリメイクっていうのも結構すごい話ですけど。でもこれはイイ曲です。

JBって1976〜1979年まで『フューチャー・ショック』っていうダンス番組の制作と司会やってたんですけど、それのオープニングにも起用されてた曲なんで、たぶん個人的にかなり気に入ってたんじゃないかと思いますね。

“蛍の光”を思わせるイントロから一気になだれ込む、モダン・テイストの軽快なソウル。

JB史上屈指の爽やか指数。

ストリングスの使い方もかなり気が利いてると思います。


ちなみに『フューチャー・ショック』はパッと見『ソウル・トレイン』と区別がつきませんが、こちらはスポンサーがつかなかったために打ち切られ、これまでソフト化もされておりません。




五曲めは、『ユー・トゥック・マイ・ハート』。

1976年作。

アルバム『ゲット・アップ・オファ・ザッツ・シング』より。

これはイイアルバムっすよ。

全体的に伸びやかなディスコ・フレーヴァーに満ち溢れてて、イイ意味での軽さもあってすごく聴きやすい。

で、この曲も『JBってこんな曲あったんだ〜!』シリーズの筆頭格でありまして、滑らかなグルーヴが心地よいメロディアスなモダン・ソウルです。

ちなみに僕の意訳になりますが、歌詞は以下のような感じであります。


キミがオレを望んでないだなんて思っちゃいない
オレはキミに心を奪われたって言いたいだけさ
キミが何を思ってるか知りたくてずっと考えてるよ
ホントは恋人なんか欲しくないくせにとか思ってるだろ
あのさ ベイベー オレはキミのことぜんぶ分かるよ
笑うかもしれないけどさ 変に思うかもしれないけどさ
おかしいだろ ベイベー
オレは生まれ変わったんだよ
これはサイコーの恋人たちのための時間さ
なあ サイコーの恋人たちのための時間だと思わないか ベイベー
キミがオレを望んでないだなんて思っちゃいない
オレはキミに心を奪われたって言いたいだけさ
マジで、マジでサイコーの恋人のための時間だって思わない?
マジで、マジで、マジで、ハグするのに最高のタイミングだって思わない?
キミがオレを望んでないだなんて思っちゃいない
オレはキミに心を奪われたって言いたいだけさ


歌詞も良いね。





六曲めは、『ディープ・イン・イット』。

 1975年作。

アルバム『セックス・マシーン・トゥデイ』より。

“セックス・マシーン・トゥデイ”ってタイトルがもうすでにヤバすぎるんですけど、これは大変な珍盤です。

なんせアルバムに収録された6曲中、5曲の冒頭が『イエエエア〜〜〜オ! セックス・マシーン!』というJBのシャウトから始まります。

全く意味がわかりません。

この“なぜか入りが全部同じ”っていうのは他にもあって、1974年の『ヘル』ってアルバムではなんと14曲中10曲、銅鑼の音から始まります。

全く意味がわかりません。

たぶんこの頃に銅鑼を買ったからとにかく使いたくてしょうがなかったとかそんな感じだと思うんですけど。

さてこのアルバムは、JBファンの中でもトップクラスに人気のないアルバムで、『駄作』の一言で片付ける方も少なくはないようなんですけど、僕は結構好きです。

こもったモコモコした音質や変則的な曲展開など、ほかのJB作品にはないオモチロサがこのアルバムには詰まっております。

で、この曲『ディープ・イン・イット』はめちゃくちゃ面白いです。

だってめっちゃデカイ声で『SEX!』って何回も叫ぶんだもん。

そんなことなくない?

そんなわけなくない?

冷静に考えて明らかに異常です。

本当に異常な音楽です。

どういうテンションなんだろうか。

面白すぎる。

P-FUNKを意識したのかな? と思わせるヘヴィでディープな曲調や、歌謡曲チックなブリッジなど聞き応えあります。




七曲めは、『ジャスト・ワナ・メイク・ユー・ダンス』。

79年作。これはJBのアルバムではなく、JBズのアルバムであります。

僕はJBだけではなく、JBズのアルバムもちゃんと聴いたんですよ、全部。

このアルバムは普通にめっちゃよかったです。

まぁ言っちゃあ王道ディスコ盤でJBファンには無視されがちな作品みたいなんですが、同時代のディスコ・バンドと比べても明らかに演奏の強度が違う。もう中までムッチムチに実が詰まってるみたいな圧倒的な密度。すげえ説得力。マジでクール。プロデュースはもちろんJB。

で、この曲、『ジャスト・ワナ・メイク・ユー・ダンス』は数あるJBワークスの中でもトップクラスにメロディアス。めっちゃメロディがいい。クッソチャラい。クレジットを見る限りJBが作ったっぽいんですけど(正確にいうと共作)、JBにこんないいメロディが書けるワケがない。




八曲めは、『ウォーターメロン・マン』。

はい、というワケでラストもJBズでございます。

ハービー・ハンコックが1961年にリリースした名曲のカヴァーでありまして、何ともジャジーかつグルーヴィーなインスト曲なんですけども、何でラストにこの曲を持ってきたかっつうと、この曲でJBがドラムを叩いてるからです。

昔のライヴ映像とか観るとJBってたまにドラム叩いたりしてるんですけど、ちゃんとレコーディング作品として残ってるのってほっとんど無いんじゃないかなあ?

決して上手いというワケでは無いんですが、もう全体を持っていくような、圧倒的パンチ力に満ちた演奏です。

昔の『芸能人かくし芸大会』だったかな? タレントの松村邦洋さんが和太鼓に挑戦するっていう企画があったんですよ。で、松村さんはメッチャクチャ下手くそなんですけど、なんか一種異様のグルーヴがあって、松村さんが叩くと周りのベテランたちがすんごいミスりまくるんですよね。全員のリズムを自分のリズムに書き換えちゃうようなパワフルさがあんの。

本当に、楽器演奏っていうのは上手いとか下手とかだけじゃないんだなあって思うんですけど、なんかそういうのに近い感じがしますね。

JBは何をやらせてもJBなのだなぁと思うことしきり。

余談ですけど、踊ってばかりの国ってバンドでドラムを叩いてる友人の坂本くんがコレ聴いて、『JBって俺のリズムの取り方に似てるかも』つってました。




はい、というワケで、JBの知られざる良曲/珍曲をざっと紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

JBの魅力は伝わりましたでしょうか?

まだストックあるんで、そのうちまた同じような内容で書いていきたいと思います。

それではまた〜。



サラームノウ〜〜〜(アムハラ語で“平和ですか”の意)。










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