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「負け癖」「辞め癖」という思考回路

人間には、「負け癖」「辞め癖」という思考回路がある。

一度始めた物事を自分に甘い気持ちで辞めてしまうと、脳がそれを次も繰り返す思考回路を作ってしまう。

辞めることに何の抵抗もなくなっていく。
踏ん張りが効かなくなるのだ。

辞め癖がついて会社を転々としている人を見かけることがある。

小さくてもいいから一度でも成功を体験すると、脳が再びそれを求めようとする。

話が私事になるが、

私には二人の子供がいる。
上が女の子で、下が男の子。

下の男の子が小学校に入学した時に、うちの嫁が息子に空手を習わすと言い出した。
息子はおとなしい性格で優しい男だ。

少しでも強い男の子になってほしいという妻の願いがこもっていた。
妻は空手の経験者だということもあったのだろう。

私も少林寺拳法と空手の経験があり黒帯も取っている。
それもあって「いいんじゃないか。」と空手を始めさせた。

ところが、息子は優しい男で、どうやら相手を突いたり蹴ったりする事に抵抗があったのかもしれない。

最初は娘も見学に行っていたが、そのうち自分には無理と判断したようだ。
娘は私に似て腕力があり負けん気が強い。
娘にこそ空手をやらせたかったが…本人はその気にならなかった。

息子の空手の大会がある時は欠かさず観に行った。
負けて泣いたこともある。
悔し涙は男の勲章だ。
叱ることはなかったが歯がゆい気持ちになった。

そのうち私が観に来るのを拒みだした。
恐らく気が引けてきたのだろう。

自分が叩かれて痛いということが分かれば、相手も痛いということが必然的にわかる。
息子は優しさが前面に出ている。
本気で相手を突けてないし、蹴りも甘いのが見ていて分かる。

勝てない、空手を始めてから全戦全敗だ…。
手数は出してはいるが、気持ちが入っていない。

脳が達成感を求めだす

そしてある日息子は「空手を辞めたい。」と言い出した。

それはそうだろう、あの状況では私でも辞めたくなる。
もしかして誰かに馬鹿にされたのかもしれない。

ここで私が息子に言ったのは、

「辞めてもいい、おまえ自身のことだから。」
「辞めてもいいけど、一度だけでいいから勝ってやめなさい。」

これを聞いて息子は、

「わかった。」と言った。

そして、それからしばらくしてまた空手の大会があり、息子には行かないと言いながら内緒で私はこっそりと観に行った。

息子はその大会で初めて勝った。
敢闘賞までもらった。

親としてはジンときた。
勝った、初めて勝った!

家に帰り息子を労った。
親バカだが、褒めてあげたかった。

そして私は息子にこう言った。

「どうする?勝ったから約束通り辞めてもいい。」

すると息子はこう言った。

「続けたい!」

私は喜んで、「分かった。」と言った。

そして息子は小学六年生までの6年間、風邪で熱を出した時以外は一日も休まず元気に空手をやり続けた。

なぜ、わたしが勝ってから辞めろと言ったかというと、負け癖が付いた男になってほしくなかったからだ。

息子は、あの日初めて勝った時どんな気持ちだったのだろう。
清々しい達成感で心がいっぱいになっただろうか。

相手に勝てた喜びよりも、自分に勝てた充実感を感じただろうか。

辞めるのは簡単だ。
いつでも好きな時に辞められる。
しかし、本気で無我夢中になり突き抜けてみたら、今まで見たことのない景色が見えてくるかもしれない。

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