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びみょう

西村麻里は実在する画家である。ドラゴンをモチーフに自由闊達な筆致でその時の心のまま、祈りを込めて描く。

麻里さんの夢を見た。「明日から個展やるんですよ。オープニングの日は、トークショーもやります」と言う。それはぜひ行きたいが、すごい人気でいつも入場券が手に入らない。値段も知りたい。

「2万5千円です」と答えが返ってきた。ほー。それは…。「娘さんもご一緒にいかがですか」と聞かれ、そうか、5万か。わたしの一存で使える額ではない。諦めることにするか、と思ったら「半額でいいですよ。お二人で2万5千円」なるほど。「その代わり、絵は一枚ですけど」え?「はい。トークショーのお土産に、わたしの絵が一点ついてきます。お好きなものを選べます」あー、なるほど。それならわかる。

個展は見たい。話も聞きたい。でも、絵は…。彼女の描くドラゴンは、開運の縁をもたらすことで知られている。だが、わが家には飾る場所がないのだ。粗末にしては申し訳ない。と、迷っていると、「割引の件は、ギャラリーに連絡しておきますね。このカードを渡したらわかるようにしておきます」彼女は小さな紙にさらさらと何かを書き始めた。わたしは「そろそろ帰らないと。ムスメも行くかどうか、確認しなくちゃならないし」と言って、家に帰った。

わたしは車を運転している。どう考えても対向車線にはみ出している。それは、隣の車が煽ってくるからだ。幅寄せしたり、スピードをわたしに合わせて緩めたり。しつこく嫌がらせをされる。対向車が真正面からやってくる。ぶつかる!というところで、なんとか自分の走行車線に戻った。

家に戻ると、大人数がワイワイしている。どうやら家族だけではなさそうだ。外国人もいる。アジア系だ。わたしはなぜこんなことになっているんだろうかと首を傾げていると、「ただいま」と言って麻里さんが入ってきた。「あれ?どうしてここに?」と尋ねると「え?今日はここが宿ですから」と言って、自分の部屋に入っていった。

家の中がとにかく明るい。蛍光灯か白熱灯かはわからないが、黄色い光で部屋が眩しいほどだ。麻里さんはストレッチャーの上で横になっている。なぜだろう。額に、4枚ほど10㎝くらいのガムテープが貼ってある。わたしはそれを一枚ずつ剥がす。麻里さんはウトウトして、寝てしまった。

深夜。麻里さんのアトリエに向かった。ビルの7階だ。そのビルは、足掛かりになるようなもののない、ツルッとしたフォルムで、わたしは壁をどうやって登ろうかと考えた。ビルの入り口はセキュリティが厳しく、ドアは開かないからだ。

わたしは左手に、開いた傘を持ち、右手で雨樋を掴んだ。風に煽られて、傘と共に体がふわりと浮く。上昇気流なのか、あっという間に7階の高さにまで登った。そこには小さな足場があり、そこに降り立つと、左手の傘は柄だけになっていた。わたしはそれを捨て、明かりのついた窓を見ている。あそこがアトリエだ。窓が開いている。わたしは飛び移った。なんとかそこに飛び込むことができた。

部屋は明るく壁は真っ白で、電灯が眩しかった。部屋を見回すが、絵はない。さて、どうやって帰るのか。ビルは垂直の壁しかなく、ここから落ちたら確実に死んでしまう。内側からビルの廊下に出ればいいんじゃないか、と思って見回すが、そこは押入れのような場所で、ビルの廊下には出られない。

麻里さんのバッグを見つけた。この中に鍵があるんじゃないか?と思うが勝手にカバンを開けられない。携帯で麻里さんに電話をする。「はーい、もしもし?」と明るい声がする。「あの、この部屋の鍵を持ってないですか」と聞けば、目の前に麻里さんが立っていて、「すみません。わたしも間借りなので」と言われる。

どうにかしてビルから出てきた。わたしは家にいた人たちと、ギャラリーに向かう。しかし、まだ2万5千円を払える状態ではない。無理なのだ。

香港の裏道のような場所だな、と思ったら、屋台のようなものの上で、人の腕を切り落としている男がいた。上半身は裸で、黒いズボンを履いた、痩せこけた男だ。一緒に歩いていた誰かが言った。「これは疫病で死んだ人の体を切り分けているんだ」うっそ。こんなことってある?わたしは怖くなった。路上を見たら、体のいろんな部位が黒く腐った死体が積み上げてあった。まじか。亡くなった人が病気だったとして、それを切り分けてどうしようというのか。

わたしは麻里さんに「ごめんなさい、本当はお金がなくて行けないんです」と言った。情けない話だが、その額は払えない。心の中で思う。お金があれば。自分が自由に使えるお金がもっとたくさんあったら…。麻里さんが「そうですか。残念ですけど仕方ないですね」と微笑んだところで目が覚めた。

麻里さんは予知夢を見るそうだ。今日のわたしの夢はどうなんだろう。



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