外科、安楽死、落選

今日みたいなてんこ盛りの日はあまりない。

昨日のnoteで自分を追い込んで、朝から病院に行った。ここは超高齢の兄弟医師が、今日も元気に開業中。わたしの担当医は、オステオパシーの使い手であり、漢方の達人、そして患者に寄り添う外科医である。

先生は開口一番「奥さま、今日はどうなさいましたか」と言う。必ず、である。「肩が痛くて、肘から先が痺れていて、胸のあたり、特に肋骨が痛みます」と言うと、ふむふむと頷きながら「そうですか。ではまず横になっていただけますか」と指示を出す。指示なのに、いつも超ていねい語だ。医者だからといって上から目線で「はい、そこに横になって」などとぞんざいな物言いはしない。「わたしが押さえますからね、奥さま、痛かったらおっしゃってください」「あだだだ!」「これは失礼しました!」みたいなやりとりが続く。「では、舌を出してみてください。はい、裏側も。」これは漢方の診断方法だ。「わかりました」先生がそう言えば、こちらも安心する。「それでは、あとはレントゲンを撮らせてください。首と胸の2ヶ所で、角度を変えて2枚ずつ撮らせていただきます」

先生も高齢だが、病院も古い。トイレは和式だし、階段は薄暗く、レントゲン室の蛍光灯はチカチカと切れかかっている。けれども看護師のみなさんが若々しくテキパキと働いていて、活気がある。待合室でレントゲンの結果を待つ。患者さんたちも概ねが高齢者だ。杖をまっすぐ立てて、その上に両手を起き、背筋を伸ばして座っているおじいさん。姉妹なのか、おばあさんの肩にさらに高齢のおばあさんがもたれかかって寝ている。まるでくたっとなったぬいぐるみが寄りかかっているみたいで可愛らしい。

名前を呼ばれて診察室に戻ったら、先生が「奥さまの頚椎の、ここのところが狭くなっています。これが肘から先のしびれの原因です。一方、胸の方のレントゲンですが、肋骨は折れていませんでした。肺炎にもなっていませんが、モヤモヤと白くなっているところが気管支喘息の兆候です。咳が止まらないのは、咳喘息といって、そのうち1割の方が喘息になってしまいます。奥さまの場合、すでに気管支の痙攣が認められますから、今のうちに治す必要があります」と言った。それから4種類の漢方薬の効能と、その組み合わせの効果について教えてもらった。

待合室で会計の順番を待っていた。友だちから『飼い猫の容体が急変して、あまりに辛そうだから、今夜、安楽死を選択する』という連絡があった。ここのところ患っていたが、小康状態だったのに。猫のためなら自分の全財産を投げ打っても治療費を捻出するであろう彼女が、安楽死を選ぶということは、それが猫にとって最良の選択なのだ。わたしは、猫が最期まで安心して、彼女が見守る中で逝けたらいいなと思った。でも、できることなら、復活してほしいと祈った。

わたしは病院から家に戻り、横になった。うとうとしている間に、ラインが届いていた。「猫が復活した。起き上がって鳴いた。病院から連れて帰る」という内容だった。奇跡。火葬まで手配していたそうだが、不要になった。
彼女は一晩数万円もする酸素供給用のケージをレンタルした。

そんなこんなで完全には痛みが取れない脇腹を抱えて、わたしはぼんやり過ごしていた。19時半。おかしい。ムスメが帰ってこない。同級生のお母さんに聞けば、18時の終礼でみんな帰ったという。今日はコンテストのメンバーを決めるオーディションの日だ。落選したのだろう。きっと、近所の友だちの家にいる。電話をしたが、友だちは出なかった。そりゃそうだ。オーディションに落選して、うちで泣いてます、とは本人を前にして言えないだろう。「今、帰りました」というラインだけ来た。5分もせずに、ムスメは帰って来た。

まっすぐ帰らず遅くなったことを叱ったら、「だって、元気が欲しかったんだもん」と言って泣き始めた。そうかそうか。でも、まっすぐ帰らなかったことはダメ。ムスメは「うん」と言って、部屋にこもった。ドアをしめたのに、泣き声は家中に響いた。

今日はいろいろなことがあった。痛み止めを飲んで寝ることにする。
いろんな意味で痛い。

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