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梅酒2009

2009年6月15日、と書いてあるビンが冷蔵庫の奥から出て来た。ムスメが幼稚園の時に漬けた梅酒。大きなガラス瓶から濾して、小さいビンに移したもの。たぶん、これが最後のひとビンだ。発見したのは3月初旬。飲もうと思っているうちに入院してしまい、お酒を飲むことができなくなった。残念。

6月は梅仕事の季節。毎年、取り憑かれたように大量の梅を買い込み、梅酒、梅干し、梅酵素、梅味噌、梅シロップを作った。ザルいっぱいに洗った梅を並べていると、青い梅の香りが部屋中に漂って「いいにおいー」と幼いムスメが喜んだ。ムスメは友だちが遊びに来た時、梅シロップのジュースを振舞って、「おいしいでしょー」と嬉しそうにしていた。

その梅仕事をあきらめたのは、4年くらい前のことだと思う。パートの仕事を始めたことや、文章教室などでなにかと忙しくて、息が切れた。大量の梅を仕入れてくれて梅仕事を一緒に楽しんだ仲間も、お互いに忙しくて情報の交換もしなくなった。それ以来、時折スーパーや八百屋の店先で梅を見かけると、なんとなく寂しくもあり、悔しくもあった。「ああ美味しそう」と眺めるのは、妙な敗北感があるのだ。ましてやおしゃれなカフェで「梅シロップのジュース500円」とメニューに書いてあると、飲みたいなと思う反面「チッ」と心の中で舌打ちをする。自分で作れば好きなだけ飲めるのに、お店だとこんなに高い。もちろん家に帰っても梅シロップがあるわけでもないのに、なんとなくもったいなくて注文できない。だからといって自分で梅シロップを作るわけでもない、この矛盾。

先日、WOWOWのオリジナル番組『おしゃべりアラモード』のお悩み相談コーナーで「妻が布団を粗大ゴミに出すと数百円取られるから、30センチずつくらいに切って可燃ゴミに出せと言うが、それだけの手間がかかるなら数百円払ったほうがいいと思いませんか」という男性の投稿を聞いた。森山良子、清水ミチコ、ゲストの片桐はいりが回答して「もったいないから、どうせ切るならクッションとか作ったらどうですかね」と話が明後日の方向に落ち着いて笑ったが、わたしも梅仕事をしないのなら、意地をはらずに数百円払ってジュースを飲んだり、美味しそう!と思った梅干しを買ったりすればいいだけのことだ。それをグダグダと言い訳がましく避けているのは、得策ではないと思い至った。そう、対価を払って、欲しいものを得るのだ。

「梅ジュース飲みたいな」とムスメが言うので、今年は久しぶりに梅シロップを作ってみようかと思っている。「えー、やっぱ作るんかい!」と、わたしの中のツッコミ担当脳が先ほどからやかましい。

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