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【042】スタートアップの採用で役職アサインはNG?採用に役職を結びつけると起こる3つのリスク

スタートアップ企業の採用で”あるある”なのが、優秀な人材を引き抜きたいけれど現職以上の年収を約束できない場合に、CXOや執行役員などの役職を抱き合わせにして採用しようとすることです。

これはリスクが高くてメリットが少ないのでやめた方がよいという話です。私の経験的には確信に近いレベルのものです。

具体的なリスクとしては、少なくとも三つはあげられます。
(1)役職を武器にした採用を続けることによる役職インフレ
(2)リスク人材を採用する可能性
(3)役割が硬直化して組織が柔軟性を失うリスク

この三つのリスクについて、すこしだけ補足をしていきます。

(1)役職を武器にした採用を続けることによる役職インフレ

高い年収を払えないスタートアップ企業が、役職を報酬の穴埋めとして差し出すことは珍しくありません。これには一定の効果があるので、一度その飛び道具を使って成功体験を得てしまうと、癖になるのが組織の性でもあります。

それがエスカレートすると、優秀人材を採用する度に空いているポジションを探しまわって役職を当てがうという、本末転倒の採用をせざるを得なくなります。例えば、営業系の人材にも職域を拡大解釈してCMOという肩書を与えてみたり…ちょっと違和感のある役職アサインがされるようになったら危険信号かもしれません。やがては役職の乱発によって、組織人数に比して幹部構成比率が高い階層構造になっていき、後戻りができなくなります。

しかもこの採用手法を繰り返すことは、役職を非金銭的報酬として扱う文化を知らず知らずのうちに定着させてしまいます。役職は、報酬ではなく役割であり責任範囲です。これが後述の(3)のリスクにもつながっていきます。

(2)リスク人材を採用する可能性

明確に「新たにCFOが欲しい」という採用のケースもあるでしょう。その場合は役職を与える前提の採用になりますが、できることなら最初はノンタイトルで採用して、社内でその実力が認められてからCFOというタイトルをつけるのが理想的です。

まず、上記のような条件でも気にせず入社してくれる人は、自分がその役職に相応しい人材だという確信を持っている、つまり優秀な人材である可能性が高いです。

そもそもスタートアップ企業への入社時に、管理職やCXOなどの役職にこだわりが強い人材は、ヒエラルキー型の働き方に染まっていたり、プライドが高い可能性があります。

また、採用面接において「権限や裁量権が必要だから肩書きが必要」と説く人は、肩書きがなければ権限や裁量権が行使できないと思い込んでいます。でも、スタートアップ企業においては、役職は目の前の仕事に取り組んだ結果ついてくるものであって、自分が引き寄せるものです。リーダーシップが必要なスタートアップ企業において、役職がなければ始まらないという思い込みを捨てられない人材は不適格である可能性が高いです。

このように、役職を条件として入社する人材は複数の点において、スタートアップのカルチャーとズレを生じるリスクが高いのです。

かたや、大企業のように職務権限が役職ごとに厳格に決められている場合は、肩書きにこだわるのも理解できます。また外資系企業でジョブ型雇用に則った組織の場合は、職務に対して年収や業務内容が厳格に紐付けられているので、その文脈で役職を求めるのは自然なことです。

(3)役割が硬直化して組織が柔軟性を失うリスク

スタートアップの強みは、戦略の柔軟性や機動性であり、組織構成もそれにあわせて柔軟に変えられることです。

採用の条件として与えた役職は、それを引き剥がすことが難しいため、異動をする場合は垂直方向の職責を維持したままの異動しかできず、組織のボトルネックになります。

スタートアップの組織は、その時の戦略にあわせて、必要な幹部要件も変化します。例えば、マーケティング戦略が肝の時には、マーケのヘッドを配置して組織自体も拡大するが、プロダクトのPMFが最優先の組織においては、プロダクトのヘッドが重要…というように、戦略にあわせて必要な幹部の要件が変わります。そういう未来も想定した役職設計をする必要があります。

(そもそも、役職で採用してみたら想定能力以下だったというケースも一定の確率で発生しますが、その場合に役職を外せないことのほうが組織の制約としては深刻なのですが。)

組織の柔軟性を維持するための文化基盤としても、役職を「上下関係を象徴する記号、あるいは非金銭的報酬」として扱うよりも「フラットな役割」として扱う文化のほうが適しています。その観点からも、採用時の年収を役職で補填するようなことは避けた方がよいのです。


ということで、個人的に結論は一択だと思っています。
スタートアップの初期には、役職を報酬の穴埋めとして渡すような採用はしない方がよいです。はい。

写真=記事に関係ないですが、台湾のおしゃれホテル”W台北”の屋上のプールサイドバーです。宿泊はしなかったのですが、バーのみ利用。素敵でしたわ(2018年11月撮影byじぶん)

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