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サン・クリストバルの鳥

わたしは割と冒険家タイプで、彼氏(コロンビア)は慎重派。

わたしは世界一と言ってもいいくらい安全な国で生まれ、安全な地域で育った。
彼は世界の危険な国TOP10をうろうろしていそうな国に生まれ、その中でも坂の上の危険な地域で育った。
だから安全に関する意識は雲泥の差なのだ。

わたしは昔から、海外旅行ではタイやフィリピンの屋台街をうろうろするのが好きだった。
安全なハワイやグアムより、どうしても薄汚い路地街に惹かれてしまうわたしがいた。

そう言うところに興味があって、実際行けない危険なところについては、本で読んだり、映像で見たりした。
そこにいる人たちが一体どんな生活をしているのか、どんな人たちなのか、なにを食べているのか、失礼ながら知りたくて仕方ない気持ちになってしまう。

しかし彼は、生まれた時からリアルなコロンビアを見てきて、そこで嫌なものをたくさん見てきた人間だ。
だからもうそんなリアルは見飽きている。

コロンビアの本当に危ないところは、本当に危ないんだと何度も言われた。
私だってわざわざそんな危ないと言われるところに興味本位だけで行ったりしないし、行きたいと思うわけではない。
でもこの国には、そんなつもりでなくてもそういう危険な地域に知らずに入り込んでしまうことがあるから注意が必要だと言う。


例えば、彼が用事を済ませている間、一人でセントロ付近をうろうろしていた。
用事が済んだと連絡がありどこにいるのと言われたので、付近の写真を撮って送ったら、
「そこは危ない場所だからそれ以上進まないで戻ってきて」と慌てて言われた。

またこの間も、家の近くのネイルサロンをGoogleマップで探していて、たまたま予約したところを
彼にも彼の従姉妹にもあそこは危ないからダメと言われた。

メキシコに一人で住んでいた私でも、こんな風に知らずに危ない地域に足を踏み入れそうになることはある。

この国の地理を全く知らないと言うのもあるけど。


もちろん危ないと言われたらそこには行かない。
でも、全てを言われるがままに生きるのも、わたしには違う。
わたしはこの街を知りたいし、ネイルサロンに行くのも、散策するのも、誰かが決めたところだけじゃなくて、自分の意思で行きたいところに行きたいと言う願望がある。
そうやってここで生きる自信をつけるのだ。

でもきっと、この国では本当に危ないところでは、本当に危ないことが起こるのだ。
そんな軽薄な冒険心が吹っ飛ぶほどのことであることは想像できる。

そして慎重派の彼が、そんな好奇心旺盛なパートナーの言動にストレスを感じていると想像して行動する事もまた愛である。

今までこんなに心配してくれる人がいなかった。
いないと思っていた。

家族なんだから、怖い目にあってほしくないと
本当の家族にも言葉で言われたことがなかった。

涙が出た。

親も、言葉に出さないけれどそれくらい心配しているのだろうと初めて気づいた。

「好奇心を押さえつけるつもりはない。でもこの国では好奇心では取り返しのつかないことが起こりうると言う事、何かあったら本当に悲しむ人がいると言うことはわかって欲しい」

日本で平和ボケをしていた。
危険な国へ行ったり、旅でスリルやリアルを感じたいのは、きっとホームが安全で暖かい場所だからだ。
自分の生活とは、違うものが見たくなる。

でもそこに行くなら、覚悟が必要なのだ。
iPhoneを盗まれるだけならいい。
それ以上のことも起こりうると言う覚悟。

彼はもう、そんな刺激なんていらない。
刺激的なことは十分で、だから旅では近未来のような日本に行きたいのだ。

わたしの冒険心は、安全なカゴの中の鳥のちっぽけな願望だった。

それでもわたしなりに、この国を見て、感じていくことはしたいと思う。