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月の満ち欠け 君の最期

世界から君が消えた
誰にも伝えず 悟られず ただひっそりと
あまりに突然のことだった
それでも僕は意外にも冷静でいられた
あぁそうか 消えてしまったんだ
そんな外側だけの事実が目の前に置かれた
悲しい 悔しい 苦しい
こういう状況で当然持つであろう感情は持てた
それなのに 涙は一滴も流れなかった
そこから先の日々は何も変わらず過ぎていった
僕も 僕を含んだ周りの環境も何一つ変わらない

君がいなくなってから丁度1ヶ月くらい経った日
その日はよく晴れて綺麗な夜空が見えていた
あかい、月だった
赤でも紅でもない
あか、というよりも濃い橙色と表現した方が
しっくりくるような、そんな月
満月には程遠く三日月と半月の間くらいのそれは
雲ひとつない夜空にぽつんと佇んでいた
ふと 君に見せたいと思った
月がよく似合う君に

「月が、綺麗だね」

自然と溢れていたのは かの文豪の言葉と涙
今になってやってきたどうしようもない悲しみと
もう君には会えないという事実が
胸に重くのしかかる

君が抱えていたものは誰にもわからない
教えてほしかった
話してほしかったなんて
そんなの単なる僕のエゴでしかないけど
それでも少しでいいから持たせてほしかった
ひとりじゃないことを知ってほしかったんだ

好きだった
不器用で少し捻くれているけど優しい君が
どうしようもないくらいに好きだった

なんで とか どうして とか
そんな野暮なことを言うつもりはないよ
だけどさ
消えてしまったら
死んでしまったら
そこで全部終わりだ
君だけじゃなくて 僕にとっても

「ねぇ、月が、綺麗だよ。」


世界から君が消えた

いや 違う

君は死んでしまったんだ

この世界を 僕を 置き去りにして

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