見出し画像

Like a Sugar

気がつけば、俺の頭の中を支配していて

気がつけば、お互いに求め合っていて。

それなのに君が振り向くことなんて、

奇跡に等しい。

「俺のことは遊び、なんだろ?」

きっといつもみたいに、素っ気ない言葉が

返ってくるだろうと思っていた。

「…そう思うんだったら、

 私を本気にさせてみてよ。」

何かが違う、夜が始まった。


部屋に響く君の甘い吐息。

唾液の交わる感覚が身体中を駆け巡る。

頭の中で俺の理性が音を立てて崩れていく。

完全崩壊まであと少しのところで、

なんとか耐えている。

絡み合う熱い視線も、身体も

まるで君という存在が俺を試しているよう。

恋人でも、愛人でもない2人の間にあるのは

快楽を求める本能だけ。

「もっと、ちゃんと俺を見てよ…。」

恋とか愛とか、甘ったるい感情も一緒に

どこかに捨ててしまえば良かったんだ。

それなら、きっと…。


俺の隣で規則的な寝息を立てて眠る君。

いつも以上にいろいろと考えてしまったせいで

頭が冴えて眠れない俺。

「ったく…誰のせいだと思ってんだよ。」

夢の中にいる君に言ったところで

届くはずもない。

重たい体を起こし、ベッドに腰掛ける。

「はぁ…」

一つ溜め息を吐き出すと、さっきまでの光景が

フラッシュバックしてくる。

君の首元に咲いた小さな紅い花。

この前会った時にはなかった。

「少しでも期待した俺が馬鹿だったのか…。」

俺がつけたものじゃない。

他の誰かとそういう関係にあるってことを

見せつけられているのか。

「本気にさせてみて、ねぇ…。」

君の言葉を頭の中で反芻する。

何を思ってこの言葉を言ったのかわからない。

今この時間、君の瞳に映るのは、

間違いなく俺だ。

わかってる。

本当は俺のことなんて見ていないこと、

向こう側にいる"誰か"を見ていることも。

だから、落ちたら終わりなんだって

言い聞かせてきた。

苦しくなるだけ、欲まみれになるだけ。

そんな俺の思いを、

君は軽々と飛び越えてしまうから

ますます君に惹かれていくんだ。

「…どうしたの…?」

どこか非現実的でまだ夢の中にいるような

君の声と、背中に感じる温もり。

どうしたもこうしたも、全部君のせいだから。

すぐそこまで出かけた言葉を飲み込んで、

俺の前で組まれた白くて細い手を握る。

この時間がずっと続けばいい。

俺から離れなければいいのに。

なんて女々しいことを考えてしまう。

「べつに、なんでもないよ。」

俺を心配するような声も、腰に回された腕も、

馬鹿な俺を期待させる材料でしかない。

「…嘘つき。」

背中から聞こえる君の声は、

さっきまで夢の中にいたはずなのに

いつもより鋭い。

「お互い様、だろ。」

生きていくうえで、嘘は必要不可欠だと

思っている。

それはもちろん恋愛においても。

今だって、君の嘘があるからこの時間が

存在しているようなものだろう。

「ふふ、私の嘘は…どこだろうね、?」

そう言うと、今まで俺の腰に回していた

腕を解いて隣に座った。

目を合わせると、今度は首に手が回される。

甘く柔らかい香りが2人を包む。

「ねぇ、好きだよ。」

まるでその言葉を味わうように唇を重ねる。

どうせ今夜だけの夢だと言うのなら、

どれだけ想いを伝えたところで

なんの意味も持たない。

だったら今日は、ドロドロになるまで、

愛してあげるよ。

愛と嘘が混ざり合う最低で最高の時間。

「俺も、大好き。」

君の首元に、また一つ紅い花が咲いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?