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How sweet do you like?

つくづく思う、私は面倒くさい女だなぁと。


「どうかした?」

あ、気づかれた。意外と早かったな。

「いや、綺麗な顔してるなぁって思って。」

「ふはっ、なんだそれ。」

彼は少し照れ臭そうに笑って、また手元の
スマホへと視線を戻す。

今は私の家で彼とまったりタイム。
お互いスマホゲームをして楽しんでいる。

正しく言うと、彼は現在進行形で楽しんでいるが
私はゲームに飽きて、目の前の綺麗な顔を
眺めていた。いつ気がつくかな〜なんて
ちょっとしたゲーム感覚で楽しんでいたら
バレたという訳だ。


彼とは付き合い始めてまだ4ヶ月。
もう4ヶ月経ったとも言えるけど。

もともと友達の時間が長かった私達。
かれこれ出会って3〜4年は経っている。
距離感もそれなりに近かったし、
頻繁に会っていたから彼氏彼女という関係に
なったことで劇的に変化したことは
正直なところ、あまりない。
もちろんスキンシップは増えたけど。
恋人特有の甘い空気とか言葉は、ない。
特段欲しているわけでもないが。

お互い1人暮らしをしているものの
ほぼ毎日どちらかの家に行くことがお決まりに
なっている。夜ご飯を食べて、寛いで、帰る。
週末であれば、泊まる。

べつにこの現状に不満があるわけじゃない。
楽しいし、幸せだなと思っている。

まぁただ、不満というか?少し ん?と思うことが
あるとすれば、

この4ヶ月の間に"好き"と言われた覚えが
全くないってこと。

告白したのは私だけど、
付き合うかと言ったのは彼。
好きじゃなかったらそんなこと言わないとは
思うけども。

べつに、毎日言ってほしいわけじゃないし、
私としてはそれはちょっと遠慮したい。

ただ、好きって言われなくても彼の行動で
伝わってくることはある。
大事にされてるな、とか思うし。

それでもやっぱり直接言われたいな〜って
思っちゃうのは、きっと私が乙女だからだろう。
そういうことにしておきたい。

まぁ、なんだ。
つまることろ、正直不安を感じている。

恐らく、私が前に言ったことを覚えているんだと
思うけど、気にしなくてもいいのにな…。


いや待て。
こんなの…ただの面倒くさい彼女じゃん。

「なーに変な顔してんの。」

「へ?」

ふにっと彼の手で頬を摘まれる。

変な顔をしていた自覚は全く無いのだが、
どうやら私の悪い癖が出ていたみたいだ。
考えていることがすぐに顔や口に出る。
例に漏れず、今もそれだろう。

「可愛い顔が台無し。」

「は?」

彼の口から出てきた甘い言葉に思わず
間抜けな声が溢れる。

当の本人は私の頬を摘んでいた手を離し
何もなかったかのように
またゲームの続きを始めている。

おいおい待て待て、言い逃げか?
…今日って記念日かなんかだったっけ。

彼があんなことを言うのが珍しすぎて
思わずカレンダーを確認する。

何もない。
誕生日でも記念日でもないただの土曜日だ。

「そんなに俺の顔見てどうしたの。
 なんか付いてる?」

「や…あんなこと、言われると思ってなかった
 から、びっくり、しただけ。」

さっきまでの不安が半分、どこかへ飛んだ。
私って単純。

「そう?物欲しそうな表情してたから、
 てっきりああいうのをお望みかと。」

えぇ…私そんな顔してたの。
恥ずかしすぎる。

「なに、どうした。さっきから変な顔ばっか
 して。言ってみ?」

あれ、この人ってこんなに甘かったかな。
本当に今日何もないっけ。

残った半分の不安に加えて変な焦りが出てくる。

言ってみ?って言われても流石に言えないよ…。

"私のこと好きですか"

なんて。

「…好き以外の選択肢が俺の中にあると思う?」

頬杖をついて私を見つめている彼を
不覚にも可愛いなんて思ってしまう。

が、

あ?待ってこの人今なんて言った?

うわぁ、やらかしたぁ…。

完全に無意識だ。
どこから口に出てたかなんてわからないし、
恥ずかしすぎて確認したくもない。

絶対今顔赤い。
わかるよ、顔超熱いんだもん。

「…こっち見ないで。」

手で顔を隠して言っても

「すぐ口に出ちゃうもんな〜。」

なんて笑いながら言うから、少し腹が立つ。
こっちはこの癖のせいで困ってるのに!!

「…馬鹿にしてる?」

「してないしてない。良いと思うけどね、俺は。
 好きだよ、素直なの。」

と言って彼は私の頭を優しく撫でる。

これは明日は嵐かもしれない。

そう思うくらい今日の彼は甘い。
甘過ぎて私溶けちゃうよ。

「ね、ねぇ、「今みたいにさ、思ってることが
 すぐに顔とか口に出ちゃう癖、
 正直羨ましいなーって思うんだよね。」

この悪癖がう、羨ましい…?

頭に疑問符を浮かべたままの私に
気がついているのか否か彼は続ける。

「ほら、俺素直じゃないじゃん。
 好きな子には意地悪したくなっちゃうから。」

小学校低学年か。
しかも素直じゃない自覚あったんだ。

「でも、俺だって同じこと思ってるよ?
 可愛いなぁとか好きだなぁとか、ね。」

今もそう、と言って私の頭を撫でるのを止め
いつもの、穏やかな眼差しを向ける。

「だけど、全部自分の中に収めちゃうから
 届かないし伝わらないんだよね。」

難しいね、そう言ってふにゃりと笑う彼の
可愛さにハートを射抜かれる。

その可愛さに免じてこれからは届かなくても
許そう、なんて思ってしまう。

ていうか何、可愛い?好き?思うことあるの?
情報量多くて私の弱い頭じゃ処理しきれないよ?

「なにそれ…。」

言いたいことはたくさんあるのに
出てきた言葉がこれ。
しかも信じられないくらい小さい声で。

「俺はね、甘ったるいチョコレートには
 なりたくないの。大人なビターチョコレート
 でありたいわけ。」

「覚えてたんだ。」

「俺にとってはかなり大切なことだからね。」


彼と付き合い始めて間もない頃。

長らく友達ではいたけど、お互いの恋愛事情は
全く知らなかったため、軽くではあるけど
元カレの話をしたことがあった。


元カレは重たい愛をぶつけてくる人だった。
もちろん私にとって、だ。
やたら好きとか可愛いとか会いたいとか
言ってくる人だった。
始めのうちは嬉しかったものの、だんだんと
その言葉にプレッシャーを感じるようになって
しまった。
受け止めなければ、応えなければいけない。

あぁ…私はこの人には相応しくない。
こんな、ドロドロに甘いミルクチョコレート
みたいな人とは相性が悪いんだ。

だから、別れた。


どうやらこの話を覚えていてくれたらしい。

だけど、

「うーん、もう少し甘い方が好き、かな。」

「ははっ、俺が我慢してた意味…!」

甘ったるいのは嫌だとは言ったけど、
ビターが好きとは言っていない。

「大人味すぎるのも好きじゃない。」

お子ちゃま舌なんだからね、私。

「ごめんごめん。」

なんて笑いながら言うから反省の色が全く
見えない。

少しむっとして彼から視線を逸らそうとすると

「好きだよ。多分、想像してるよりもずっと。」

私が欲しかった言葉を次々と言ってくる。
なんなの、さっきから心臓に悪すぎる。

「……」

「てことで、今まで控えてたから、
 今日は気持ち悪くなるくらいの糖分を
 摂取してもらおうかな。」

そう言って彼は立ち上がりキッチンへ向かう。
またもや私の脳みそは情報を処理しきれない。

「はい、どうぞ。」

テーブルの上に置かれた2つのアイス。
私の好きな抹茶味と、彼の好きなチョコ味。
いつ買ってきたやつだろ。

「リアル糖分もあるんだ…。」

「ここに来る前に買って来た。好きでしょ。」

目の前にあるアイスを指差して言う。

「うん、好き。ありがと。」


甘ったるいのは好きじゃない。
私には受け止めきれないから。

ビターすぎるのも好きじゃない。
もっと、足りないって強欲になるから。

好きとか可愛いは少しで充分。

今まではそう思ってた。

だけどね、君なら
気持ち悪くなるくらい甘くても
幸せで胃もたれしてもいいかなって思うんだ。

なんて、私は面倒くさい女だね。

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