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Unknown

街が眠りにつく深夜、夢を見てた。

暗い、海の底みたいな夢を。

"お前は、生まれてから一体いくつの分岐点を

 見逃してきた?"

そう、もう一人の自分に問いかけられた。

…そんなの考えたってわからないし、

きっと数え切れないほどあっただろう。

だけど、現在いまの自分に後悔はしていない。

俺たちは、ひとりで生きることはできないから

この不安定な世界で手を取り合って

生きているんだ。

甘えだと言われれば確かにそうかもしれない。

ただ、独りで生きていくことはできずとも

一人で生きていくことはできる。

後者を選び、他者と手を取ることを

選んだことが正しいのかはわからない。

でも、正しいかどうか知りたいのだって

自分たちを防衛するための本能だ。

人は答えを欲しがる生き物だから

答えがないと不安になってしまう。

それはきっと、誰だって同じ。

だから、この不安な思いを少しでも

軽くしようと答えを求めるんだ。


目が覚めても、街はまだ眠っていた。

意味のわからない、無駄にエネルギーを

消費する夢を見てしまった。

ベランダに出て頭を冷やす。

星が降る夜をただ仰ぎ、気づけば空に

手を伸ばしていた。

何も掴めやしないことなんてわかってるのに。

「いい加減夢から醒めろよ…。」

…かつて天才だった俺たちへ、

特別な存在になれると信じていた俺たちへ。

夢を叶えることだけが幸せな道とは限らない。

それに気づいた未来で、俺たちは

俺たちの青春だった音楽を辞めたんだ。

みんな似たような形に整えられて、

今や見る影もない。

花火のような自らの運命を変えようだなんて

不可抗力に抗って無駄な時間を

過ごしているだけだから。

「間違って、ないよな。」

今まで何度も言い聞かせてきた。

自分で選んだ道に後悔しないように。

仮に後悔したとしても、振り返らずに

前を向けるように。

"お前は、生まれてから一体いくつの分岐点を

 見逃してきた?"

また、もう一人の俺が問いかける。

「見逃してなんかない。全部選んできた。

 "お前"にとってそれが正解じゃなかった。

 …それだけだよ。」

その時、どこかで春を告げる音が聞こえた。

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