花組公演『アウグストゥス 尊厳ある者』

いやあ、まさかこんなことになるとは…。

4回観る予定が、コロナ関係で結局2回。しかも有観客最終日の公演を観るという…。今回は退団者もいるので、本来なら観るのにもっと相応しい人達がいるのに、という思いもありつつ、だからこそ心して観ました。ちらほら白っぽい服の方もいたり…Twitterで「ロビーで泣き崩れる方もいた」というツイートを見かけ、胸が痛む。

とはいえ、作品の感想はまた少し別、なるべく冷静に記録。


今回のお芝居『アウグストゥス 尊厳ある者』は、ローマ史上初の皇帝となったオクタヴィウス帝と、カエサル等古代ローマの政治を司った人々の物語。正直なところ、良作では無いかな。

当たり前に人が持つ欲、そこから生まれる憎しみが交錯し混沌とする中で、それでも人が最終的に行き着く先は、許し、信じるものに進むこと。そんなドラマを描きたかったのだろうと思う。

さまざまな登場人物たちの、欲や憎しみといった感情面を描くことが中心になり過ぎて、その理由となるエピソードが少し物足りない。結果として、感情の押しつけが前面に出てしまい、特に初日後すぐの頃はそれを受け止めるのがものすごくしんどかった。2回目観劇時は、演技として感情の露出のバランスが取れたかなと、素人ながらに感じた。観る側の私が慣れもあるかもだけど。

また、結局オクタヴィウスは何を考え、何をしたのかいまいち印象に残りづらい。基本的に受け身型の主人公なので余計に…。本作には成長物語という要素もあると思うけど、そこまでストーリー自体には入れ込まれていないかと。そんな役どころを、ゆずかれーは、真摯に演じていた。ともすれば、「何がしたいねん」と観ていてイライラしがちな役を、もうひたすら純粋な青年として存在させていた(そうするしかなかったかもだけど)。前作『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』でも思ったけど、歌がよりうまくなった。のびやかな声が素敵でした。

逆に、良かった点は、いろんな役のソロや印象的なセリフが多かったこと。さまざまな人物の思惑が垣間見える、役の見せ場がそれぞれにあるのは、ファンとしては単純に嬉しい。

そういう意味では、今回はオクタヴィア役・音くり寿ちゃんの、銀橋ソロは本当に良かった。控えめな女性の役ですが、婚約者への思いを切々と歌い上げ、その後のセリフの少しの間に、ちらりと女の情念を入れ込んでくる。実力はもちろんのこと、表現が本当に素敵な娘役さん。そんな彼女にきちんと見せ場があって本当に良かった。また、退団する美花さんも、ヒロインの元奴隷という良い役をやっていて、お嬢様思いのまっすぐなお芝居が素敵でした。


さて、以下は主な役の感想。

ポンペイア役の華ちゃん。父をカエサルに殺され、復讐のために生きるヒロインを、強くも脆い女性として演じていた。古代ローマ時代特有の布がたっぷりとした数々の衣装をかわいらしく、美しく着こなしていて素敵。宴の翌朝の場面の鬘、ロングで毛量多めなのはわざとかな…寝起きの乱れた雰囲気が少し大人っぽくて良かったです。ゆずかれーと同様、歌がうまくなって…なんで退団してしまうかな、もっと成長する姿を見てみたかった。

アントニウス役のあきらは、自身のための欲望をだだ漏らしているので、ある意味人間らしく嫌なやつ笑 退団と考えるともう少しかっこいい役やってほしかったなあとは思うけど…キスシーンもあったし、良きかな。めっちゃ顔動かすなあと冷静に観てた…アダルティでした。

かちゃのクレオパトラは、良い意味で予想通りの美しさと存在感。ソロは、なんかそういうショーを観に来たっけ?と思った笑 ガウンドレスっぽい装いで、黒髪おかっぱの鬘を脱ぎ捨て、金髪ベリショ風の髪型に変化するのはかっこいい。権力と愛のどちらを求めていたのか、結局曖昧ではあったけど、それもミステリアスという魅力…かな。

ひとこのブルートゥスは、アントニウスと同じくらい欲望と行動が明確なので、一番いろいろ納得して観ることができた(となると主人公の存在がますます弱く見えてしまうはめに…)。主人公と相反する立場という意味では、悪役ポジ的な要素もあるし、演じていてある意味楽しそう。死に方が頭ぶつけそうで、本気で心配した。ひとこはセリフも明瞭で、歌もめっちゃうまいのにさらっとしていて、良い意味で実力を武器にしていないところが好きです。


結論としては、作品としてはそんなに好きではないです…好きな人はごめんなさい。やっぱり、主人公以外の人物たちにフォーカスを当てすぎたのでは?と思う。かと言って、主人公やヒロインの話ばかりというのも味気ないけど…1時間30分では限度がある、難しい。

とはいえ、前述した通り、逆にいろんな人たちに見せ場があり、それはとても楽しかったです。千秋楽は配信もあるので、この休演期間でどう変化しているのか…。仕事で観ることは叶わないけど、無事に終えられることを祈っています。

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