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小説「まなざし」

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交通事故で聴力を失った女性、瞳美と彼女と生きることを選んだ恋人の真名人。音のない世界で、彼女のまなざしは何を語ろうとしていたのか。 普通の恋人と同じように愛し、すれ違い、味わうこ…
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2019年3月の記事一覧

まなざし(1) 音のない世界

まなざし(1) 音のない世界

すさまじい夢を見た。
何がすさまじいかと言えば、4年前に、私の住んでいる家の交差点で起きた交通事故を目の当たりにした人たちの、つんざくような悲鳴だ。「きゃあ」とか、「うわっ」とか、いろんな叫び声が、私の耳に容赦なく届いた。
それから、その悲鳴の中で、一人の男がこう叫ぶ声も。
「人が、轢かれたぞっ!」
ヒトガ、ヒカレタゾ。
何かの暗号のように降ってきたその言葉が、私の耳にはぐわんぐわんと壊れた音を放

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