リハビリつれづれ 4

 この後、階段から転んで骨折してしまったおばあちゃん、交通事故にあったおじいちゃん、テニスをしていてアキレス腱を断裂したおじさんのリハビリをして、午前中の臨床業務は終了となった。私は売店で弁当を買い休憩室に向かった。
「おつかれー。あら今日は早いのね。」
「今日は小森さんに早く会いたくて早くお昼休憩にしました。」
「カルテ書く気分じゃなかったってことね。電子レンジ空いたからどうぞ。」
「ありがとうございます。」
 小森さんはこの病院に勤務して二十年以上になるリハ助手である。リハ助手はその名の通りリハビリ業務の手助けを行ってくださる方で、患者さんの移乗(車いすの乗り降り)の手伝いや、患者さんの歩行練習をするときに点滴棒を持ってもらうなど、理学療法士のお手伝いをしてくださるだけでなく、リハビリ室で使う物品の管理であったり、事務処理などさまざまな業務をこなしてくださっているリハスタッフである。そして小森さんの隣にいるのは広間さん。小森さんの一年後輩でリハ担当の事務員さんである。患者さんの受付業務をするだけでなく、さまざまな事務仕事を行ってくれている。小森さんと広間さんがいるからこそセラピストは臨床業務に専念することができているのである。
 このお二人のベテランが支えているのは業務面だけではない。理学療法士にはどうしても先輩・後輩の関係が生じる中で、この二人は客観的な立場でうまく場を取りまとめてくださっている。例えば、新人セラピストがミスをして、先輩から厳しく指導されることがあった時には、このお二人は後からこっそりと声をかけてくださり、その先輩が新人のころの失敗話をしてくださる。私がこのお二人に支えてもらったことは数知れない。そして私だけでなく、この病院で働いている若手、さらには中堅の人達は皆このように面倒をみてもらった経験があるのである。
 小森さんはお昼のテレビをみながら広間さんに話を振る。
「まーた政治家の汚職事件だって。ワイドショーも大変よね。同じ話を決められた時間分いろんな人に話を振ったりして尺稼がなければいけないんだから。こんなに批判の嵐だと政治家さんがかわいそうなくらい。」
「そうよねー。でも政治家も悪いことしてるんだからしょうがないわよ。ワイドショーの人達だってしゃべるのが仕事なんだから。」
「まあそうだけど。やっぱり政治に関わるっていうのは少しでもミスをしたらいい批判対象になっちゃうのねー。世の中の不満をここぞとばかりにぶつけられるからね。」
「どうしてお昼ってワイドショーが多いんでしょうね?暗いニュースばっかりみてたらテレビしかみることがない患者さんは気休めにならないわよ。」
広間さんはいつも患者さんのことを気遣っており、例えば、事務業務が落ち着いているときには病室への搬送を待っている患者さんに声をかけている。これはセラピストと患者さんという関係とはまた別の関係であり、患者さんからしたら元気をもらっている行動だと思う。
「政治家もほんとにいろんな人がいるわよね。いっそ武井君が政治家になった方がいいんじゃない?彼まじめでまっすぐだし。」
「確かに武井君は、詭弁は言わないだろうね。」
「批判されても精神強そうだしね。問答法はできなそうだけど正論で突進しそう。」
「あ、でも彼が政治家になったら変な政策出されそうだからだめね。国民健康政策とか言ってプロテインを日本国民に無償提供してマッチョを優遇しそう。」
「あー、武井君ならやりかねないわね。これで医療費を節約できるんだといか言って。」
「あらら、神奈川県横浜市でトラック追突事故だって。うちの病院の近くじゃないの?」
 私はささっと昼ご飯を食べ終えるとリハビリ室に戻り患者さんの治療ベッドに横になる。休憩時間にこうも横になって仮眠を取れるのはこの仕事ならではだろう。人によってはこの休憩時間を勉強時間や、自分の体のメンテナンス(ストレッチ・筋力トレーニング)に使っているが、私は消化に血液を多くとられているため自分の胃腸を助けるために昼寝をとるのが日課である。ただ、たまに胃腸に血液をとられすぎて脳が休みすぎてしまうことがある。その時には小森さんが起こしてくれるため、そういうところでも小森さんには感謝しなければならない。

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