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若い劇伴作家のための映画案内#6

『ソーシャル・ネットワーク』とアナログシンセ


ソーシャル・ネットワーク』(原題: The Social Network)は2010年公開、
監督はデヴィッド・フィンチャー、アカデミー賞で8部門でノミネートされて作曲賞ほか、3部門を受賞という映画です。Facebookの内幕を描いた映画ですが、全てが事実ということでもないようです。
音楽を担当したのは、トレント・レズナーとアッティカス・ロス。
二人ともロック系のミュージシャン。インダストリアル・ロックの大メジャーバンドであるナイン・インチ・ネイルズのメンバー。このバンドについては僕はそんなに詳しくないです。リアルタイムでずっと知ってますが、いろいろと過激な印象。まあとにかくずっと評価は高い。
トレント・レズナーは、実は1994年くらいから映画音楽に関わっていたようで、オリバー・ストーン監督の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』、デイヴィッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』にも参加しています。
この辺りも僕は見てはいますが、そこまでは追えていませんでした。
でも、『ソーシャル・ネットワーク』の音楽のインパクトは強くて、映像業界、映像とは直接関係ない音楽業界でも話題にもなり、僕も相当好きなサントラになりました。

監督のデヴィッド・フィンチャーは元々はミュージックビデオを撮っていた人で、僕も当時から名前は知ってました。80年代はMTVの台頭により完全に(と言ってもいいくらい)プロモーションがラジオからMVに移り、まあ、とにかく全シングルのビデオが必要ってことになっていくので、大量の映像監督が登場し、その中からすごい人もそれなりの人も出てきたというわけです。
ちなみに、MTVの開局一曲目のオンエアーがバグルスの「Video Killed the Radio Star」だったらしく、もちろん偶然じゃないと思いますが、まあすごい話です。似たような話で1984年にジョージ・オーウェルの小説「1984」を元にして、世界を支配するビッグブラザー的な産業に勝つのはパーソナルコンピュータだってことで、初のMacintoshコンピュータのCMが放送されたりします。監督はリドリー・スコット。はい、みんな大好き「ブレード・ランナー」。

いつも通り話がずれまくってますが(苦笑)、飲みながら話していたらここまでで既に1時間使っているかもしれません。

この『ソーシャル・ネットワーク』からドラゴン・タトゥーの女』(The Girl with the Dragon Tattoo)2011年、『ゴーン・ガール』(GONE GIRL)2014年、『Mank/マンク』(Mank) 2020年 まで、ずっとこの二人が音楽担当。
とにかくシンセです。アナログ。とは言っても、それまでのシンセ中心の映画音楽といえば、ジョルジオ・モロダーとかヴァンゲリスとかちょっと派手めできらびやかでメロディもしっかりある的なものだったのですが、この二人の作品は、アンビエント系というか音響系というか、リズムとパッドがノイズが中心の音楽。発想としてはロックです。でも静寂さもある。映画にはバッチリあっている的な。(『Mank/マンク』は別アプローチです。ちょっとびっくり)
ブルーレイの特典映像に二人の音楽の二人のインタビューがあります。
「台詞のないシーンは少ない。音楽が前面に出るような美しい場面や恐ろしい場面もほとんどない。注目すべきは繰り広げられる言葉の応酬と押し寄せる情報の嵐。だから緊張感を保ちながらも音楽は控えめにすることにした。」と言ってます。フィンチャー監督の演出にはぴったりということです。まあ見方(聴き方か)によっては「控えめ」とも思えないけれど笑。わかりやすいメロディは、とても少ない。仕事場の様子も映りますが、かなり狭い部屋にパッチのシンセが山積みです。劇伴のメイキング映像っていろいろあるけれど、音自体も映像に対してやっていることも、かなり違います。
デモの音楽を作るときに特定のシーンのことは考えなかったと言ってます笑。印象的で面白い音楽を作ろうと心がけただけだ、と。言ってみてー笑。
まあ、もちろん後で映画の編集に合わせて作り直したとは言ってます。
そして、シンプルなメロディだけれど重要な場面で何回かかかるテーマ曲は本当に素晴らしい。このピアノは生で録音したらしい。
必見のドキュメントです。

フィンチャー監督のこれ以前の映画も見ておくべき系のもの多数。
セブン』(Seven、劇中の表記は"SE7EN")1995年 ハワード・ショア
ファイト・クラブ』(Fight Club)1999年 ザ・ダスト・ブラザーズ
ゾディアック』(Zodiac)2007年 デヴィッド・シャイア
ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(The Curious Case of Benjamin Button)2008年 アレクサンドル・デスプラ

もう何度も見た映画ばかりです。
もし、クライアントから「ほら、デヴィッド・フィンチャー的なやつとか合うと思うんだけれどなあ」と言われた時は、まあ、このアナログシンセ、アンビエント的なアプローチかなあ。でも、セブンだったりファイト・クラブだったりもあり得るので「どのフィンチャー??」と確認したほうがベターかもしれません。


では、また次回!

映画をメインに劇伴の音楽プロデューサーをやっています。
音楽打ち合わせの時には、具体的な映画のタイトルが飛び交うことが多いですが、若い作曲家にとっては生まれる前の映画なんていう場合も多く、
どこから手をつけていったらいいかわからないなんて話も聞くので
打ち合わせで実際に出た映画とかを(不定期に、、、)紹介していきます。
何か、間違っていたことを言ってたりしたら、ぜひ、ご指摘いただければと
思います!

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