見出し画像

本懐半壊。 #20230312

 この間も例に洩れず酔っていた。
 友人の誕生日を祝った後、午前四時前の帰路。三月に入ったというのに深夜の冷え込みは戻ってきたようで、繋ぐ先の無い指先から徐々に熱を奪われていく。
 耳の奥に残る先刻までの喧騒と、目に映る暗い道とのズレを楽しみながらゆっくりと歩く。気分はどことなく軽いのだが、アルコールで鈍感になった体の足取りは言い訳出来ないほどに重い。翌日の仕事さえなければ空元気でスキップのひとつでもしてやろうといったところなのに。
 空を見ても星一つ見当たらないのは天気の所為か、目の焦点が合っていないのか。考えるのをやめた。


 こうなれば焼け石に水とわかっているのだが、一分一秒も早く寝てしまいたかった。息つく間もなく寝間着に着替え、横になる前にペットボトルの水を飲み干した。体内のアルコールが薄まるかどうかはわからないが飲まないよりは幾分かマシだろう。
 とは言え結局横になって目を閉じようが先刻までの喧騒が耳から離れないので、諦めてゲームをしていたわけだ。手前味噌だが諦めと切り替えの早さは定評がある。身体が鎮まるのを感じたころ、睡眠可能な時間は三時間を割っていた。一つ大きく息を吐いて、誰も知る由の無い独り言が部屋の真ん中で踊った。
 「まぁ、こういう日もある」


 行きたい所、してみたいこと、なりたい自分、出来ることと出来ないことに折り合いを付けて色々諦める。繰り返す。デイアンドデイ。昨日と違う何かを拠り所にするように足掻いてみる。
 酒に弱くなった。気がする。年齢を重ねたためか寝つきも悪いし、そこはかとなく怠い。しかし容赦なく朝は来る、習慣はいつしか反射になって、アラームの鳴り始める五分前にピンボケした世界と目が合う。今日もあの人が元気だったらいいなって思う。


 人間は産まれて、起きて、寝て、死ぬまで主観一つこねくり回す一人遊びだと個人的に思う。冷めたことを言いたいわけじゃなくて、斜に構えたいわけでもなくて、他人の感覚を頭で理解したところで自分が全く同じになんてなれない、ならない。個々の主観は永劫交わらない。
 だから悩める君を客観視してる俺の主観はどこにも寄り添えなくて、ごめんなって気持ちだけ乗せて吐いた息半分、煙半分、目の前で消える。
 普遍的な妥当性に基づいた慰めが必要なら言ってほしい。あんまり薄っぺらいから吹いたら飛んでいきそうだし、お勧めはしないけれど。
 差し出した本音と貼り付けた表情が一致していることを願うばかり。


 ワザと良くない方に舵を切ってみたりした瞬間に、聞きたかった報せがあったり、タイミングってのは斯くも難しいものかと苦い気持ちになる。
 が、それもまた明日の酒の肴。


 また今宵も酔いながら、駄文散文極まれり。合掌。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?