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杪秋、過ぎ行く間に見た梦。

 数か月前、思い付いてコテージに泊まろうと提案した。

 これまでにも旅行は度々企画しているものの、都度目的がハッキリしているために予定がみっちりと詰まってしまい、自由な時間が少ないと感じていた。もちろん友人と過ごす時間に密度があってのこと、然程問題は無いのだが、少しくらい旅行の中で一人になる時間というか、オンオフを感じる瞬間も欲しいような、曖昧で純情な感情が空回り。
 そもそも友人との旅行で一人の時間を求めるってどういうこと??と言われたら正直返す言葉もない。友人と一緒に得る経験や思い出こそグループで動く醍醐味でもあるだろう。そこを否定するつもりはないのだが。

 しかし気持ちの上では過ごし方の変化を欲していたのだ。これ自体ただの価値観の話なので強くは主張しないし、いくら何でも話せる友人達と一緒だとしても、一人の時間を作ることを前提に旅行しようとか言い出したら「コイツ遂におかしくなったか」とか「一人でどこでも行け」なんて言われかねない。そんな事態を回避する慎重さと、それでも望んだことを実行する大胆さを心に秘めて生きていた気がする。今となってはよくわからない。

 友人と連れ立って行くけど、現地でソロキャンプするような感じを求めていると言えば伝わるだろうか。友人が居るのに一人の時間がある、つまり精神的に余裕のある贅沢な時間を過ごしたかった。泊まるだけが目的ならば自由な時間が生まれやすいはず。そんな発想からのコテージ宿泊提案だった。
 キャンプと旅行の中間。行くこと自体が目的。のんびりした時間を求めようじゃないか。忙しくてストレスフルな現代社会へのささやかな抵抗だ。と、言うわけで集うのだ仲間達。

 毎度のごとく雑な呼び掛けに、結果14人が集まった。大漁である。
 大人になってから誰かと仲良くいるためには、結局のところ同じ時間を過ごすのが一番で、しかしそのシンプルさ故社会人には難しい。常に仕事だの予定だのが付き纏う。
 それができずに手が離れて、心も離れて、交わらなくなった人達は少なくない。大人として生きていくことは、そういう自分の細かな心の機微を見ないフリしていくことでもある。だからこそ呼び掛けに応じてくれたことは今も嬉しく思う。

 人数が多ければ多いほど、希望を取り入れたり予定を組んでいくことは正直燃えた。全員から少しずつ話を聞いて計画の着地点を探る様は謎解きゲームみたいで楽しさすら感じる。
 調整を重ねて、詳細を詰めた。当日着いたらコートを借りてテニスをするし、翌日は体育館でドッジボールバスケットボール、終わったら昼からグラウンドを借りて野球。スケジュールがやたらに運動不足を解消させるタイプのもので、加えてそこそこ忙しめだ。詳細を詰めたら予定も詰まりに詰まった。あれ??合宿しに行くんだっけ??

 旅行ごとにタイムスケジュールをExcelで表にすることが多いのだが、今回も自分好みのスケジュール表が完成して少し満足していた。準備に余念がない点こそ私の持ちうる美徳なのだ。出来た表を眺めながら、ふと考えた。

“一人の時間が全然無い”

 見てわかる密度。冒頭の意気込みは何だったのだろうか。どうして調子に乗ってしまったのか。加減を知らないのか。色々と頭をよぎった。
 何を考えても浮かんでしまう、どこで間違ったんだ??という気持ちをそっと心の奥にしまった。もうやるしかない、やるしかないのだ。

 次は予定を未定にするということ自体を目的にすると誓った。朝から晩までボーっとしたい。南国とか行こうよ。
 いや高知じゃなくて、バリとかタヒチとかそういうやつ。


§§§


 当日、雨が降るだの雪が降るだのという予報もなんのその。急な寄り道、ファミレスで昼ごはん、法定速度内のカーチェイス、宿での食材の買い出しなどを経て車四台の大所帯が無事宿に到着。私の車は寄り道により美味しいみかんを手に入れた

左右2棟で20人泊まれる広々コテージ

 二時間テニスを楽しんでからのチェックイン、既に足取りが重い者も居たのは予想外だが、はしゃいでもらえて何よりだ。
 荷物を運び込み、晩御飯の用意を調理班に託す丸投げ

 私はONE PIECEを読んでいるから知っている。仲間に調理従事者が居るという心強さを。しかも今回は3人だ、私の出る幕は無いね。……いつも無いけどね。

今回3人もいますからね、ウチは

 決めた部屋割りの通りに荷物を振り分け、料理人達に仕事を投げた。そんな私に出来ることは何か。ひとひらの自由タバコ休憩を楽しみ、熱狂の渦お風呂タイムに身を任せることだった。
 あ、ちょっと自由な時間あった。幸せはここに存在したッ!第3部完!

16:45、陽が落ちていく

 冷たい空気がフィルターを通る、体に入って、出ていって、空気に紛れて消えていく。上がっていく温度と下がっていく温度を五感で楽しんで、まだまだ1日は終わらない。
 これだ、この緩やかな時間をを求めていたんだ。たぶん。


§§§


――準備に余念がないことを美徳とするならば、対義の悪徳とは何か。

 答えは、当日何もしない事である。先述の料理だけじゃない。何もかもを現場の元気な者たちに、この日のためにコンディションを整えてきた友人達に任せるのだ。責任を信頼という言葉に包んで全力投球だ。いいよな??オーケーサンキューマイフレンズ。
 そのために準備を頑張っていると言えば聞こえは良いが、無事に日程をこなせる段階に入ると、何となく気が抜けるし妙に疲れを感じてしまう。明らかに昔とは違う感覚、これが加齢というやつなのかもしれないな。

 嗚呼、外で花火の音とみんなの声が聞こえる。窓にちらりと目をやり、耳だけを澄ませながら物思いに耽る。だって寒いんだもん、外

 ごめん、花火のために外には出られません。いま、暖かい室内にいます。この夜を全力で乗り切るテンションを今更作っています。
 ……本当は、年相応の自分でいたいけれど、でも今はもう少しだけ、知らないふりをします。私の作るこの時間も、きっといつかみんなとの思い出に変わるから。

大成建設のテレビCMのパクリ

 言い訳するわけではないが、まずエナジーが必要なのだ。今という瞬間を乗り切るためのエナジーが。熱が。そうだろう??

合法エナジードリンクの一部

 な??酒だ。酒が必要なんだよ。

 百薬の長たる酒もこれほど集まれば最早オールスター、素敵な夜を彩る様は満天の星空、テーブルは小宇宙、心が躍り出す。

 用法用量及びマナーを守って飲むのが酒の常だが、なんとここには気心の知れた友人しかいない。そんな友人達とパーティーが行われた。内容は想像にお任せしたい。
 サイコロ三つに肝臓をBET、トランプの行方に明日の体調をBET、運武天賦ならぬ運武游賦。酒に溺れるには酒と共にある時間を泳がなければならないのだ。体が、心が、Alcoholを求めた結果がここにある。

 良い夜だった、テキーラの本数が足りていなかったことだけが唯一の反省点だった。次は量を三倍、いや、五倍にすることを約束する。
 まだ伸び代があるなんて素敵なことだな。

 私はというと然程負けていないために酔い潰れることはなかった。
 しかしながら、ほろ酔った体と眠気と暖かい空気が混ざり合って頭がぼうっとし始めたので、冷えた空気とタバコの煙とで目と頭を覚まそうと外に出た。


§§§


 ――素敵な夜を彩る、本物の星空がそこにあった。

 目前に広がった絵画のような夜景を頭が認識した瞬間、息を呑んだ。

 肌を刺すような寒さを一瞬忘れて、暗い中をふらふらと歩き出した。
 一人、今日という日の隙間のようなタイミングで、誰も見えないこの空間を慈しむように氷点の空気を吸い込んだ。
 この景色を時間ごと切り取ってしまえたらいいのに。

 空を見上げて数秒、そんな戯言をせめて写真にしてしまおうと考え、持ち込んだ三脚を取りにコテージへ帰った。

 そして今度はみんなで星を見た。

ナイトモードでばっちり撮れる
そう、iPhoneならね

 澄んだ空気であるほど、光や音は遠くまで届く。月があまりにも輝いていて少し目が眩んだ。立ち止まった時の静寂と対比して、枯葉を踏む足音さえ耳に響く。
 思い思いの感想を述べたり、じっとしたりはしゃいだり、それぞれの時間が重なったり離れたり、そんな光景は何となく美しかった。

 すっかりと天体観測に浸って冷えた体にもう一度酒を入れて、あまりの良い気分に浸りながら横になった。
まぁ横になっただけで全然寝付けはしなかったんだけれども。


§§§


 3時に寝て、5時前に起きた。あんまりなので6時半ごろまで二度寝した。

寒い朝だから…

 新しい朝が来た、希望の朝だ。別にラジオ体操は始めないが、おはようと声を掛け合える素敵な朝だった。
 朝の新鮮な空気で一服して部屋に戻ると、料理班が朝ご飯と昼の弁当をこしらえていた。部屋中良い匂いがする。大家族のリビングみたいでなんだか少し笑えた。

こだわりホットケーキ

 今回の楽しみの一つがこのホットケーキだった。
 市販のホットケーキミックスに北海道産の牛乳、広島産のちょっと良い卵、カナダ産のほどほど良さそうなメープルシロップ、カルピス社製のお高いバター。自分だけで作るにはあまりに無謀なコストで成り立ったホットケーキは罪の味がした。そこそこ究極ホットケーキと名付けよう。自分の舌のハードルは軽々飛び越えていったが、こちらもまだ伸び代があると思う。次はホットケーキミックスをゼロから作るとかそういう感じでやってみよう。


§§§


 朝を優雅に過ごした我々はチェックアウトを行い、体育館へ移動した。楽しいお泊りは終わったがレクリエーションは今からが本番だ。どうかしている。
 二時間余りの体育館でドッジボール、フリスビー、バスケットボール等をこなした。自分の弱い膝が恨めしい。しかし弱音を吐いている場合ではない、体育館の利用時間を終えて多目的グラウンドへ移動した。帰る時間までひたすら野球だ。

 久々のキャッチボール、ノック(打つ方だが)、ロングティーバッティング、楽しい、あまりにも楽しい。しかしなまじ経験があるだけに体の衰えがよくわかる。放った球が伸びない、打った球が飛ばない、力が伝わってない、頭と体がズレている、全身違和感しかなくて逆にしっくりきた。顔で笑って心は泣けてくる。人間はこうやって緩やかに終わっていくのだ。まぁそれも良い、きっと。

わんぱくお昼ご飯

 料理班の作ったお弁当があまりにもピクニックご飯で、ブルーシートの上で食べているとなんだかリトルリーグ気分だった。いいなコレ、レクリエーションの合間に食べるには最高だ。お金で買えない価値ってこういうことだだろう。どこまでも贅沢。
 のんびりと過ごして、しっかり体を動かして、徹頭徹尾最高の2日間が終わった。

 体力使い果たして帰りの運転が非常に危険だったので、次はもう少し調整しよう。疲れすぎて帰り道でうっかり人生終わらせかけた人がいたのはここだけの話。今後も“もう若くない”と“まだまだイケる”を使い分けながら楽しんでいこうと思う。


§§§


 と、まぁこれが先月の話。相変わらずの寝かせっぷり。そしてまた気付けば長い長い日記になってしまった。相変わらず文章が下手で申し訳ない。お付き合いありがとうね。
 もう年の瀬、年内にもう一回何か書く気力があれば……とは思うけれど何もしないんだろうな、きっと。今の内に来年の目標書いちゃおうかな。もっと短く簡潔で面白い文章書く、にしておきますね。恐らく達成できませんけれど。ではよいお年をお迎えください。


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