見出し画像

悲しきガストロノームの夢想(35)「チェリーストーンの誘惑」

 ニューヨークで何が食べたいかと問われたら、兎にも角にも、セントラル・ステーションの地下に行き、グランド・セントラル・オイスター・バーで、サミュエル・アダムスのビール片手に、チェリー・ストーンを食べたいと答えます。
 20歳過ぎのころ、コロンビア大学のある研究者に連れて行ってもらったのが初体験でした。その後、ボストンでも同じ組み合わせで楽しんだことがありますが、チェリー・ストーンの味わいは、やはりこのオイスター・バーのがたまらなく美味しいわけです。
 チェリー・ストーンとは、蛤に似た貝で、日本語ではホンビノスガイと言います。ほんのり紅色の貝ですが、味わいがたまらなく良いのです。少しだけホースラディッシュ(西洋ワサビ)をのせて、サミュエル・アダムスをグイッと飲めば、もう何も言うことはありません。
 夕方、セントラル・ステーションから帰宅するビジネスマンなどが、ちょいと一杯という感じでUの字をしたカウンターで、1時間ほど、この組み合わせの食を堪能しているだけで、私のニューヨーク滞在の第一歩は満たされます。冬場なら、クラムチャウダーを間に挟んで落ち着かせてからも良いかもしれませんが、カウンターの中にいるスタッフの動きをしっかり見つめてタイミングを測るテクニックが必要です。このお店では、もちろん生牡蠣がメインなので、中盤にメーン州の生牡蠣やクマモトという小さい生牡蠣などを間に挟みます。
 ニューヨーク到着日の夕方早めにセントラル・ステーションに行き、前半、中盤、そして後半にかけ貝づくしとサミュエル・アダムスで満たされると、ほろ酔い加減で一度ホテルに戻り休憩し、夜はお気に入りのジャズバーに出かけ、夜深くになり、遅めのディナー代わりのワインバーとなります。
 新型コロ◯になり、ここ数年我がチェリー・ストーンには出会えずにいますが、来年あたりニューヨークに出かけ、初日の夕方早めに顔を出したいものです。中嶋雷太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?