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「死にたい」と叫んだ娘と小さな私の神さま⑤【完】

そうして数か月後、卒園を間近に控えた3月上旬に、娘は保育園で
「死にたい」
と泣き叫び、周りの大人を、そして子どもたちをも驚愕させたのだった。

(私のせいだ)

咄嗟に浮かんだ思いはもちろんこれだった。
(我が家の家庭環境についても)
指導が入るだろうか……と心配したのがその次だ。娘の通う保育園は、副園長が幼い頃に虐待を受けた経験から、児童虐待についてかなり厳しい保育者の目と対処をすることで有名だった。

(それならばこれは、いい機会だ)

たとえ娘と引き離されてしまったとしても、娘にとってそれが良いことなのであれば受け入れよう。でもできれば私を独房にでも入れてください。娘は自由にしてあげて……

と、いつものことながらすさまじい勢いで悪い予想展開を繰り広げていく私であったが、先生は冷静に温かく「保育園では〇〇くんが少しちょっかいを出してしまったのですが、いつもはここまで取り乱さないので……ご家庭で何かあったんですか?」と聞いてくださり、お兄ちゃんとのやりとりなどを話すに至った。

先生はやんちゃな男児にありがちなことだと共感してくれたが、「一度お兄ちゃん連れてきてよ。先生がじっくり話してきかせたいわ」と正直な感想をおっしゃった。

それは親がやるべきことですよね。本当に情けない。

さまざまな想いが駆け巡る頭と胸中を抱え、その後も日常を送っている。

今でも兄妹喧嘩は絶えない。今朝も「あっちへ行け。(妹を)見たくない」と言い放つ兄に絶望した娘が「私はいらない人間なんだ!!」と大泣きをしたので、すかさず抱きしめ、背中をさすり、ゆっくりゆすりながら話す。

「ママは、あなたが生まれてきてくれたこと以上に嬉しいことなんかないよ。パパもそう思っているよ」

「でもお兄ちゃんはいらないって言った!!」

「そうだね。じゃああなたはそんな、あなたのことを要らないって言うお兄ちゃんの言うことを聞いて、あなたが居てくれて嬉しいと言う人の言葉は無視するの?ママやパパの言葉を?」

「わかんない!!」

「じゃあ教えてあげる。あなたが生まれた時、どれほどたくさんの人が祝福してくれたかを。病院の先生、助産師さん、ばぁば、じぃじ、おおばぁば、パパ、親戚のひとたち、このアパートのお友達、大家さん、通りすがりの人だって、みんなあなたを見て『おめでとう』と言った。あなたがこの世に生まれてきて嬉しい、という意味の『おめでとう』だよ」

「でも、お兄ちゃんは要らないって言った!!嫌な気持ちがした!!」

「そうだね、そうだね。そんなこと言われたら嫌だよね。ねぇそういうときはさ、あなたの中の神さまを思い出してごらん?あなたの中には神さまがいるんだよ。神さまだから何でもできるんだよ。そんな嫌な言葉を、バリアではじき返すようにしてってお願いしてみたら?あなたのその柔らかい心に嫌な言葉を1mmも入れないで。ってママもお願いするね。刺さってしまったトゲがあったら、癒してってお願いするの。大天使ラファエルは癒しの天使だから手伝って……え?できるよ!何度も言ったでしょ。あなたは神さまなんだから、できる。自分で自分を守ること、できる。癒すことも、できる。たくさんの目に見えない存在も、お願いすれば助けてくれる。絶対に」

(この私の言葉は)
と、徐々に落ち着きを取り戻す娘を感じながら私は思う。

(思想の植え付けかもしれない)
何度も同じ不安が頭の中をループする。

だけど、これは私が37年生きてきた中で学んだ大切な教えです。
色んな本を読んで、様々な方のお話を聞いて。
占星術から宇宙の神秘を学んで。

大きくなってあなたが別の教えを選びたいならば、その時選び直したらいい。今は私の教えを伝えさせて。目から次々とあふれていた涙が止まり、じっと私の話を聞けるまで落ち着いてきたあなた。私はきっとこの教えをあなたに伝えるために、誰かに伝えるために、このやっかいで繊細な性格をもって生まれてきたのではないかと思ったんだ。

この宇宙は神さまがおつくりになった。
私たちもその一部で、この宇宙が、地球が、自然がこんなにも美しく完璧であるのはそこに神が宿っているから。すべてが神の表現だから。

だから、あなたは美しい。

私は娘に言いたい。娘を泣かせた息子にも言いたい。私のことを小ばかにするけどとっても優しいパパにも、できることなら今つらくて悩んでいる見知らぬ誰かにも、あるいは犯罪を犯した人にも。押し込めても押し込めてもどうしても邪悪な気持ちが溢れてきてしまうときの自分にも。

あなたはこの世に必要とされたから生まれてきた。

……みんなに言いたいと、見栄を張ったかな。
結局は、私は自分に言っているんだと思う。でもそれでもいい。なんでもいい。娘よ、聞いて。たとえ私の独りよがりでも。

『あなたは、美しい』

そう、神さまが言っているよ。
これからも、自分の中の小さな神さまの声をどうか、どうか、いつも聞き続けて。

そしてどこまでも歪で完璧なこの世界に生まれた者同士、



共に生きましょう。




【完】


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