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D-Genes 9 【連載小説】

 コール。コール。コール。

 いくらコールしても相手は電話に出ない。これが普段であれば気にならない。だが、今は状況が状況だ。マコトの身に何かあったのだろうか?

 軽井はもう一人の会社のメンバーで、創業者でもある安藤誠に電話をかけていた。だが安藤からは電話はおろかメールでも連絡がつかない。

 軽井がヘテロ社に協力している荒川という政治家の遺伝子データにアクセスしようとしている間、安藤は荒川の身辺を調べることになっていた。足で調べると言っていたから人間関係などの聞き込みをしているのだろう。それが軽井の不安を煽った。

 確かに元警察官の安藤に、そういう仕事はうってつけだろう。だが、それは安全を保証するものではない。あのような後ろ暗い政治家がらみの身辺調査は常に危険が伴う。いくら前職が警察だからといってもリスクが消えるわけではない。

 そんな風に考え出すと、段々作業に集中出来なくなる。軽井はマグカップのホットコーヒーにカプセルを入れて一息に飲んだ。あまり関心されるような飲み方ではないのは知っているし、安藤に注意もされたが、別に気にしていない。それよりもマコトのタバコのほうが人に迷惑をかけるし有害だろう。

 そう思いつつ、再びパソコンに向かった。すると、先ほど使っていた軽井の携帯端末ではなく、事務所に据え置いた電話が鳴った。

 この電話が鳴るのはろくなことがない時だ。安藤なら端末に連絡するし、普通の客はメールで問い合わせをする。

 こんなふうに、会社の電話に直接かけてくる時は、面倒な客のクレーム。あるいは……。


 子機を持ち上げると、やかましい電子音は鳴り止んだ。

「はい、こちらD-Genes社の軽井です」

 軽井が言う。

 すると、電話口から男の声が返ってきた。

「Gunus Hetero社の相川です。あなたにしてもらいたい事があります」

高圧的な声だった。


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