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夜が一番長い日に。   

万年筆を洗った。
流しても流しても、内部で固まったインクが溶け出してくる。
夢中で洗った。
中からインクが出てこなくなるまで。

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最近毎晩「明日の自分への連絡帳」を書いている。

夜のうちに、明日することを明日の自分に書き残しておくと
明日の朝、迷わずにすぐ行動できるから。

これをするようになって随分と以前より行動できるようになった気がする。

そしてなんとなく、1日前倒しで日記を書いているようで面白い。

その連絡帳もとい1日前倒しダイアリーのページ数が今年も残すところあとわずかとなり、
来年用のノートが必要になった。

毎年使っているものがあるのだけど、来年は少し違う雰囲気のものを使ってみたくて、
先日出掛けた時すごく吟味してノートを買ってきたのだった。
毎日使うものだから手触りや書き心地が良いものがいい。


なんでも、そのノートは書き心地にこだわった紙を使っているらしく
そのノートについていた帯に、

「書く音が聞こえるラフな肌感が魅力です。文字を書く事を愉しんでください」
と書かれていた。
万年筆の挿絵と共に。

紙にペン先が走って文字が綴られている様子と、その書く音が頭に浮かんだ。

そういえば買ったきり使いこなせていなかった万年筆があったな。

久しぶりに出してみると、透明なボディにインクが染み出して、
スケルトンだった外観が一変している。
スケルトンの万年筆なんて珍しくて、一目惚れで買った物だった。


試し書きしてみたが、筆圧で傷が付くだけでインクが出てこない。
インクのカートリッジを付け替え、しばらく置いてみたがそれでも書けない。

万年筆 書けない
とググってみた。

なるほどしばらく使っていなかった万年筆は、ペン先でインクが固まってしまっているらしく水洗いすると復活するらしい。

仕方なく真新しく付け替えたインクを外し、ペン先を水で洗ってみた。

出る出る出る出る….
インクがどんどん染み出してくる。
面白いくらいに溶け出してくる。

スケルトンなボディが買った時の姿を現し始めた。

固まったインクが水に溶け出していく様子は、
私の中の古くコチコチに固まったモノが溶けて流されていくようで、
不思議な心地よさを覚えた。

途中からはもう最初の動機など忘れて夢中になって洗った。

どれだけ自分の中に溜め込んでいたんだろう?
どれだけ洗えばクリアーに戻れるだろうか?


グーグル先生曰く「水に浸しておくだけで良い」との事だったけれど、

ペン先を水を満たした小皿に浸してはつまみ上げると、
その物理作用でインクがスルスルと溶け出してくる。

浸してはつまみ上げ、浸してはつまみ上げ….

一巡ごとにインクがどんどん溶け出してクリアーになっていく様子を見ていると
なんだかとても癒された。

沢山の物を手放してきたつもりだったけどまだまだ私の中には、
こんなにも頑なで凝り固まったモノがあったんだな…..

そんな事に気付かせる為の、
何か見えない力に仕向けられた出来事のように思った。

一年で一番夜が長い日、
万年筆を洗った。
流しても流しても、内部で固まったインクが溶け出してくる。
夢中で洗った。
中からインクが出てこなくなるまで。


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