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雨のなか思い出した、夏休みの匂い。

台風が近づいている土曜日の午後、予約していた整体から「台風なので、無理せず、キャンセル承っております」という、なんとも丁寧なLINEが届いた。先回りしてこういう案内を出せるって、なんて粋な心遣いだろうと感心しつつ、私の住むエリアは直撃ではなかったので、この程度の台風でキャンセルなどしないぞと、出かける準備にとりかかる。

この日の約束ごとが、ランチだったり、買い物だったりしたら、おそらく「ではお言葉に甘えて……」と、予定をキャンセルしていたかもしれないが、何せ私の体はカチコチで、ほんとにカチコチで、二週間に一度の整体は、どうしたって欠かせないのだ。だから、少しくらい大雨だって、風が強くたって、キャンセルはしたくなかった。

ただ、夕方あたりから風と雨が激しくなると聞いて、開始時間を早めることができるというので、少し早めてもらうことにした。おそらく、私の前に予約していた人がキャンセルしたのだろう。

夏休みに入った土曜日、ふつうなら街は人で溢れているであろうに、天候の力はなかなか大きいもので、午後3時、その街は思ったよりも人が少なかった。

整体の前後、数時間は食事を摂らないほうがいいということで、それはしっかりと守っているのだけれど、整体へ行く途中、駅前に鯛焼き屋があって、行きも帰りも、いつも鯛焼きのいい香りが誘惑してくる。店の前を通る数秒は、香ばしいかおりとの闘いの数秒でもある。

いい香りもあれば、都会ならではのにおいもある。雨の日によく感じるのは、あまり遭遇したくないにおいだ。おそらく下水の関係なのだろうけれど、ところどころで、むわっと突き刺してくるような、何とも言えないにおいに襲われることが、ときどきある。台風が近づいている昨日もそうだった。

田舎で育ったこともあり、夏の雨のにおい、夏の雨上がりのにおいで思い出すのは、たっぷりと水分を含んだ草木が放つにおいだ。それが記憶にすり込まれている。夏の、雨の、都会の片隅から放たれる、いわば悪臭に遭遇してしまった昨日は、においがスイッチとなったのか、なぜか小学生の夏休みを思い出した。

まだ朝露が残る時間に、近所の公園に行き、ラジオ体操をする。そして、参加したよという印のスタンプを押してもらい、飴玉をひとつもらう。なんてことのない日常の記憶ではあるけれど、鯛焼き、台風、雨、都会、悪臭という、とりとめのないキーワードから、小学生の記憶にタイムスリップするなんて……と、ひとりでくすりと笑ってしまうような、そんな記憶に触れながら整体に向かった。

2時間たっぷり施術してもらい、いま体はとても軽い。けれど、二週間後にはまたカチコチになっている。そして、またあの道を歩きながらほぐしにいくのだ。


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