作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』Vol.45♫語順を変えて七色の表現に
Vol.44のドリルはいかがでしたか?
「夏」「海」「泳ぐ」「私(僕、俺)」
4つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、短い文章を作って下さい。
「泳ぐ」は活用しても構いません。
同じストーリーでも、どんな順番でシーンを伝えるかによって印象が大きく変わる、という事を前回お伝えしました。
映画やドラマのシーンを編集する作業のようなイメージですね。
ドリルの例を挙げてみましょう。
1と2では、どんな違いがありますか?
1.「私は夏の海を泳ぐ。」
2.「泳ぐ、夏の海を、私は。」
特に、耳で聞く歌詞やセリフの場合は、語順通りにリスナーの頭の中にイメージが追加されてゆきます。
絵や文字面をパッと一気に見るのではなく、順に情報が追加されていって、一枚の絵になるのです。
それをよく踏まえて文章を組み立てることで、よりイメージ通りに伝えることができます。
1. は、主語で始まり動詞で終わる、普通のきちんとした文章って感じ。
2. は、いきなり動詞で始まるので、気持ちが前に出て、勢いが出ています。
穏やかにきちっと伝えたいなら1.、張り切った感じを出したいなら2.の方が良さそうですね。
ことばの選び方や表現と同様に、『伝える順番/文章の組み立て方』にもその人のセンスやクセが出るものです。
例えば、どうしても固い雰囲気の文章になってしまう人。
「主語が最初でなければ!」と、1.のような文章の組み立てに縛られていませんか?
たまには主語で始めるのをやめてみると、新しい発見があるかもしれません。
逆に、普通の言葉しか使っていなくても、文章の組み立てが自由自在なら、強い個性を放つことも可能です。
さらに、歌詞の場合は、語順が変われば、メロディのどこにどのキーワードが乗るかが変わります。
すると、抑揚やアクセントの位置も変わり、伝わり方がより大きく変わるんです。
せっかく良い歌詞を思いついたのに、メロディに乗らないから、と簡単に諦めてしまうのはもったいない。
語順をフレクシブルに変えてみたらバッチリ乗った、ということがよくあります。
乗せたいのに乗らない。
これは、作詞のレッスンで生徒さんからの相談がとても多い悩みの一つです。
100%そのまま乗せることは無理だとしても、柔軟に工夫すれば、8割9割同じ内容でメロディに合う形にできることが多いです。
先生の役目は、「それが可能だ」ということを示すことだけだ、と何かで読んだことがあります。
まさにその通り。
私も、「こうすればできるよ」と一例を示すことで、100%妥協しなくてもアイディアをメロディに乗せることは可能だということを示し、その方法と、「可能なんだ」という確信をレッスンで吸収していって欲しいと思っています。
まずは語順を変えてみましょう。
捉われてしまっていることから自由になること。
それで解決することも多いですよ。
さて、シンプルな文章でも、語順を柔軟に試してゆく中で、ユニークなフレーズになったりします。
まずはパズルみたいに気楽に遊びながら、実験してみましょう。
3.「夏は海、私は泳ぐ。」
4.「夏を泳ぐ私は、海のこども。」
同じキーワードを使っていても、思い浮かぶ絵がそれぞれちょっと違いませんか?
3.は、いかにも夏らしい海のシーン。その海で、生き生きと泳ぐ私。
4.は、海に限らず、夏を満喫する私。夏の一つの象徴としての海。自由なこどものような私の姿。
逆に言うと、そもそも思い浮かべているイメージが膠着していると、ことばや語順を変えても大きくは印象が変わらなかったりします。
例えば、夏の海を私が泳いでいる絵が頭にこびり付いていれば、4.のようなアイディアが出にくいかもしれません。
時々頭の中のイメージをリセットして、より自由にことばを操れるようにしましょう。
「泳ぐ」は活用okだったので、こんなのもありですね。
5.「泳げ!私、夏と海。」
6.「泳げない、海も、夏も、私も。」
7.「泳げたらいいのに、私の海を、真夏の空の下。」
「短い文章で」という指定があったので、そこに制限を感じた人がいたかもしれませんね。
そういう場合は、一旦制限を取って、好きな長さで書いてみましょう。
さあ、自由な長さでどうぞ!
、、、書けましたか?
書けたならok。
もし制限を取り払っても書けなかったのなら、書けない原因は別にあったということです。
実は、行き詰っている原因を勘違いしていることは、レッスンをしていてもよく見られることなんです。
まず、原因をはっきり見極めるために、制限を全て取り払ってみて下さい。
「〇〇だから書けない、できない。」
それならその制限を取り払って自由に書いてみる。
そして次に、制限を加えて、クリアする方法を考える。
一気にゴールにたどり着こうとすると行き詰まりやすいです。
歌詞のように、パッと見短い表現の場合、一気にゴールできそうな気がしちゃうかもしれません。
でもご存知の通り、シンプルで短い表現ほど、無駄なく筋肉質である必要があり、容易くはありません。
手間暇かけて、遠回りもいとわずに、丁寧に磨き上げることが良い作品への道筋です。
これは必ずしも「時間をかけなきゃダメ」という意味ではありません。
何度もこの着実な道筋を踏むのが、経験。
経験値が上がれば、だんだんとその道筋を速く通ることも可能になって行きます。
もう一つ、「4つのことばを一度ずつ使って」という制限もありました。
一つのキーワードを二度以上使ってしまった人は、修正してみて下さいね。
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《ことばのドリルVol.45》
「月」「見上げる」「花」「咲く」
4つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、文章を作って下さい。
(動詞の活用ok。長さも自由。)
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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。
ありがとうございます!