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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』Vol.47♫抽象的なことばはそれっぽくなる(罠)

まずは前回のドリルをやってみて下さい。

「愛」「夢」「希望」
3つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、文章を作って下さい。


短くても長くても、どんな形態でもokです。



どんな文章(詩、歌詞、つぶやき、作文、物語など)ができたでしょうか?


抽象的なことばとは?

「愛」「夢」「希望」
この3つのことばは、歌詞などでめちゃめちゃおなじみの、“抽象的なことば”です。

まずはじめに、“抽象的なことば”ってどんなことばなんでしょう?

きちんとした辞書的な説明はさておき、
『壮大で、リアルじゃないことば』
くらいに捉えておくと良いと思います。

あとで詳しく書きますが、これらのことばのイメージを絵に描くと、基本的にみんな違う絵になります。つまり、固定された視覚的イメージがない=リアルじゃない、ということです。

“抽象的なことば”を使うのが得意な人も苦手な人もいると思いますが、表現力を豊かにするためには、必要な時に適切に使えるようになっておくに越したことはないですね。


抽象的なことばを使うと「それっぽく」なる。でも…

なんと、“抽象的なことば”って、適当に並べるだけで簡単にそれっぽくなるんです!

例えば、

『愛を夢で満たして、希望の空へ』
『愛という希望がきらめく夢』
『夢みるほどに愛は膨らみ、希望が輝く』

良くもわるくも、簡単にそれっぽく、立派になる。
それなら、歌詞なんかラクチンに書けそうな気がしちゃうかも?!

ただ、それゆえに、中身のない表面的な表現にもなりやすいんです。

そんな“B級の表現”にならないためには、“抽象的なことば”の壮大な雰囲気に酔いしれることなく、意図やイメージをしっかりと持って使いましょう。


逆に、雰囲気だけ作れれば良いからさっさと“仮詞”を書きたい、なんていう場合には、“抽象的なことば”はとっても便利です。
つまり、何でも良いからとりあえずメロディに仮の歌詞をのせておきたい時。
メロディにはまる“抽象的なことば”を適当にのせておけばそれっぽくなるし、「スマホ」や「ジンジャーエール」みたいなリアルなことばと違って、妙にイメージを固定してしまうこともなく、ちょうど良い訳です。


「愛」の絵を描けば、みんな違う

冒頭にも書いた通り、“抽象的なことば”には、はっきりした視覚的イメージがありません。
「愛」の絵を描いてみて、と言われても、みんなが同じ絵にはならないということです。
だからこそ、何か視覚的なイメージを作ってから表現するのも良いと思います。

例えば、こんなイメージを思い浮かべたとします。

【ハート型の雲(「愛」を視覚化したのが、ハート)が青空に浮かんでいる。その雲を、カップル・家族・友達同士など、様々な形の愛で結ばれた沢山の人たちが見上げている。

そして、そのイメージを元に、ドリルをやってみましょう。

『「愛」が浮かぶ ふんわりと
広ーい空に 真っ白な
見上げるみんなのまなざしは
「希望」と「夢」に満ちている
大人と大人 大人と子供
子供と子供 犬とヒト
彼女と彼女 彼と彼
彼と彼女 君と僕
虹が出ない日が続いても
みんなで虹を描けばいい』

このようにはっきりと絵を思い描けば、なんとなくことばを使ってしまうことはないはずです。


逆に、“抽象的なことば”にはっきりした視覚的イメージがないことを利用して書くのも、一つの方法です。

これは、“愛の姿”という、目に見えないものを探す設定になっています。

『「愛」の姿を探していたら、キリンの「夢」を見たんです。
キリンのキは「希望」のき。
見渡せてる?見つかりそう?
見えないなあ。でも見てみたい。
短い首をしゃんとして、私の旅はこれからです。』


愛・夢・希望はありきたり?

「愛」「夢」「希望」は本当によく歌詞に出てくることばですね。
よく生徒さんに「愛とか夢って、使うとありきたりですか?」という質問をされるのですが、答えはNoです。

決して『よく出てくる=ありきたり』ではありません。
これらのことばは非常にスタンダードで、使い古されるようなものではないし、そもそもことばって、何かを表す記号のようなものだから、ありきたりとかそうでないといった基準自体がおかしいのです。

ありきたりに感じてしまう・感じさせてしまう場合には、理由があります。
・先入観に捉われて、ことばの“使い方”が型にはまっている
・深く考えずになんとなく使ってしまっている
・ことばに“気持ち”が入っていない
などが考えられます。

描いているストーリーや伝えたい心情・メッセージにとって、そのことばが本当に必要なのであれば、例え何万回、何億回と使われてきたことばでも、唯一無二の説得力を持つはずです。


ドリルにチャレンジしてくれたあなたは、「愛」「夢」「希望」ということばと、純粋に向き合うことができましたか?
先入観に縛られてしまったなあと思った人や、なんとなくことばを並べちゃったかも…という人は、いったん頭をリセットして、もう一度チャレンジしてみてくださいね。


まとめ

大事なのは、『“抽象的なことば”にははっきりした視覚的イメージがない』ということを理解し、意識して表現できているかどうか。

それっぽく雰囲気が出やすいからこそ、ムードに流され上っ面になりやすい“抽象ワードの罠”にはまらないよう気をつけて、表現の質を上げていきましょう。


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《ことばのドリルVol.47》

「コーヒー」「ソファ」「駅」
3つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、文章を作って下さい。

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。


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