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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』Vol.43♫テーマやタイトル…何も思い浮かばない時の万能薬は?

Vol.42のドリルはいかがでしたか?

‘ら’‘り’‘る’‘れ’‘ろ’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。
頭文字は、どんな順番でも構いません。(ろ、り、ら、る、れ など)
テーマはありません。自由に書いてみて下さい。

『あいうえお作詞(作文)』シリーズが続いています。
今回のようにテーマが自由なのと、決められているのとでは、あなたはどちらが書きやすかったですか?

自由って、書きたい事がある時には良いけれど、すぐに思いつかない時は逆に戸惑ってしまうこともありますよね。

そんな時にオススメなのが、『(仮)』

仮のテーマ、仮のタイトル、仮のキーワード、仮のフレーズ、仮のモチーフ…
何でも良いので、仮の何かを決めるんです。
仮だと思えば気楽に何でも出しやすくなるし、例え仮でも、指針があると五里霧中の状態から抜け出し、創作を進めやすくなります。

『あいうえお作詞(作文)』の場合も、頭文字が(仮)の役割をして発想を引き出してくれるので、書きやすくなる訳です。


今回のドリルも例を書いてみますね。

「ラッキー!」が口癖の女神は
リップをひと塗り、僕に微笑む
ルックスも中身も自信ゼロな僕に
「レッテル貼ったのは自分でしょ?」と
ろ過されたような澄み切った眼差しで刺してくる

今回は、頭文字の順番を入れ替えてもいいよ、ということでした。
出来上がってから行を入れ替えてみるのも、面白い実験になりますよ。
出来上がった世界・ストーリーを、違う方向から見てみるような感覚。
同じ内容でも、伝わり方や印象がどう変わるでしょうか?

ルックスも中身も自信ゼロな僕に
ろ過されたような澄み切った眼差しで刺してくる
「レッテル貼ったのは自分でしょ?」と
リップをひと塗り、微笑む君
「ラッキー!」が口癖の、僕の女神

行を入れ替えたことにより、少し文章を修正しました。
また、入れ替えてみた時に〝女神〟ということばが出てきて、良いと思ったので、元の1行目が〝君〟だったのを〝女神〟に直しました。
そんな風に、行を入れ替えてみた結果、表現のブラッシュアップになることもよくあります。

柔軟に作品を磨いてゆくコツは、1行1行のフレーズを文字の羅列として捉えるのではなく、コンテンツ(内容)として捉えること。
ことばの表面に囚われないのがポイントです。
シーン(絵や映像)で捉えたり、「この行はこんな感じことを言ってる」と全体でざっくり捉えたりすると良いでしょう。

「一つのことを表すのに一つの表現しか出てこない」という時は、ことばの表面に囚われてしまっているのかもしれません。
ことばを一旦捨て去るつもりで、コンテンツで捉えられれば、表現って無限にあるように思えてきますよ。

普段、ことばで考えることに慣れている人がほとんどだと思うので、これは少し訓練が必要かもしれません。
気長にやってみて下さい。
苦手だなあという人は、日常の中でほんのちょっとでも、ことばを忘れて何かを感じたり、味わったりする時間を持つようにしてみましょう。
次第に変化を感じられてくると思います。


『あいうえお作詞(作文)』でなくても、『(仮)』の方法は万能です。

例えば、何か作詞したいけど、何も思い浮かばないとします。
そこで、仮のテーマを書き出します。
ここで悩んで立ち止まってしまう人は、「30秒以内!」とか、制限時間を決めて、エイっと決めてしまいましょう。

『初恋(仮)』

と書いたとします。
書いてみた途端、あまりにチープで嫌気が差すかもしれません。
でもいいんです。
何も書かずに永遠に時を過ごすより、書いてみて「これは違う」とはっきり認識した。それもまた一歩進んだということだから。

じゃあ、『初恋』の何が気に入らないのか考えましょう。
『二番目の恋』の方が良さそう?
そもそもテーマは恋じゃない方が良いのかも?
単に初恋というありふれた言葉に飽き飽きしているだけ?
自分で自分と対話しながら、一歩ずつ核心に迫って行きます。


もう一つ試してみましょう。
今度は、仮のタイトルです。

あの日の出来事(仮)』

書きたい方向は合っているのだけど、気に入らない。
何が気に入らないのだろう?
ありきたりでインパクトがないのかも…。
でも、がっかりしなくても大丈夫。
まずは「ありきたりでインパクトが足りない」ということが分かったのだから。

じゃあ次に、どんなところがありきたりなのか考えましょう。
「あの日」も「出来事」もざっくりしていて、タイトル全体がぼやけてしまっているのかもしれません。

一体どんな「出来事」なのか、もっと具体的にしてみましょう。
具体性の程度は様々でokです。
「出来事」と大きく括られたのでは伝わらない、そのストーリーならではの匂いがしてくるように、言葉を探します。

「あの日のキス」「あの日のピクニック」「あの日の冗談」「あの日の空中散歩」「あの日の笑顔」「あの日の残念賞」「あの日のキンモクセイ」「あの日の爪痕」

イマイチなことを書く自分を戒めないで、どんどん放出させる。
引っかかること、気に入らないことを一つずつ解決してゆく。
そして、一歩ずつ理想に近づいてゆきます。


仮の何かは、スマホやパソコンではなく、必ず紙に書いて下さいね。
『初恋』や『あの日の出来事』くらいなら、わざわざ書くほどでもないと思うかもしれません。
でも、実際書き出すと全然違います!

他の人と対話をする時、キーワードを書き出して進行しやすくすることがありますよね。
目印があると進みやすい。
文字の形や大きさ、クセからも、何かが伝わるかもしれない。
自分と対話する時だって同じです。
また、書き出す過程で、よりそのことばを実感することもできます。


こだわりの強い人ほど『(仮)』が苦手かもしれません。
仮だとしても適当に決めるのは不本意、適当ができない、という人もいます。
創作にはこだわりが必要だけれど、こだわりが強いがゆえに先に進めなくなってしまっては元も子もない。
「仮だからまあいいや。とりあえずこれで。」と、良い意味で無責任になる練習だと思いましょう。

納得がいかなくてもまず外に出してみる。
「ダサい!自分の実力はこんなはずじゃ…」と思ったとしても大丈夫。
誰にも見せなきゃいいんですから。
仮に書いたものを客観的に見て、自分と対話してゆくことで、着実に前進することができます。

仕事では、まず書き出してみて段階的に…というやり方をみんな普通にするのに、創作になった途端、それができなくなる人がいます。
もしうまくいかなかった場合、自分のアイデンティティを誤解されたり、否定されてしまう気がしてしまうのかもしれませんね。

でもむしろ、そういう人の方が創作には向いてるんじゃないでしょうか。
「身を削る」じゃないけれど、本気で表現しようとしているからこそ重くなってしまうんだと思うので。
そういう人は、行き詰った時にどうすればいいのかをいろいろ知っておくと良いでしょう。『(仮)』もその一つです。


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《ことばのドリルVol.43》

‘ぱ’‘ぴ’‘ぷ’‘ぺ’‘ぽ’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。
頭文字は、どんな順番でも構いません。
テーマはありません。自由に書いてみて下さい。

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。


ありがとうございます!