見出し画像

私が好きなだけじゃダメなのね

私の地元、花巻で、大好きなお店がひとつ、先月末で閉店してしまったと聞き、とても残念です。

リンゴや野菜の畑に囲まれた、一見普通の住宅のようなお店。
店名も、リンゴの品種の名前からとって、「わいんさっぷ」。
絶品のカレーを食べられるお店でした。

サフランライスに、季節の野菜の素揚げが乗り、辛いけれどフルーティな旨みたっぷりのカレーがかけられている一皿。大好きでした。

今年の3月末、どんぐり(長男、3歳)が、保育園に行くのを激しく嫌がりました。
私の妊娠がわかったばかりの頃で、つわりで体調が悪く、家でもよくトイレにこもっていました。
どんぐりも何となく私の変化に気付き、不安な気持ちになっていたのかなと思います。

また、園でも、年度の変わり目で、担任の先生が退職されることになっていたり、なんとなくいつもと違う雰囲気があったのかも知れません。

「せんせい、おはよう、しない」「せんせい、やだ」と言い、泣いて暴れて、どうにもならない日がありました。

妊娠する前は、多少ぐずっていても、最後には半ば無理矢理抱っこして車に載せて、保育園に連れていくこともありました。
保育園に着いてしまいさえすれば、何とかなりましたし。

でもこの日は、私も心が折れてしまって、職場にも保育園にも、どんぐりの体調が悪いと電話をし、人生初のズル休みをさせてしまいました。

そしてあてもなくドライブ開始。
涙でびしょびしょの顔のまま、行き先が保育園ではないとわかった途端に、はしゃぐどんぐり。
とりあえず国道を南下して、コンビニでジュースとおやつを買い、脳内作戦会議です。

勝手知ったる地元花巻へ行き、公園でひとしきり遊ばせて、とにかく今日はのんびり、気分転換しよう。
お昼は私も美味しいものを食べたい。
そうだ、わいんさっぷでカレーを食べよう。

でも、心の中は不安でいっぱいでした。
今日はズル休みしたけれど、明日からはどうしたらいいんだろう。
年度末の忙しいときに、そんなに何日も仕事を休んだら申し訳ないし。
でもそれよりも、どんぐりの気持ちはどうしたら落ち着くんだろう。

わいんさっぷに着き、優しい店主さんの顔を見たら、気が緩んで泣きそうになりました。
瞼を腫らしたどんぐりと一緒に個室に通してもらい、カレーの匂いに包まれながら、窓から外の畑を眺めました。

どんぐりには、辛いカレーは無理なので、私の分だけ頼んで、素揚げの野菜と、ごはんのカレーがかかっていない部分を取り分けて食べさせようかな、と考えていたのですが。

どんぐり用に、カレーをかけず、ケチャップをぐるぐるかけたものを出してくれました。

「きいろのごはん、おいしい!」
「おいも、おいしい!」
ひと口ごとに、おいしい、おいしいと言いながら食べるどんぐり。

優しさと美味しさに満たされた時間でした。

おかげで、たくさん不安なことはあるけれど、何よりもどんぐりの気持ちを大事にしよう、と腹を決めることができました。
ズル休みしたこと、「せんせい、おはよう、しない」という発言があったこと、申し訳ないけれど、保育園に正直に相談。

それからも、泣きながら登園したこともたくさんありましたが、親子ともに成長するための時期だったなと、今となっては微笑ましく振り返ることができます。

親でも家族でもない、実家でもないけれど、本当に居心地が良くて、いつも感動的に美味しい、わいんさっぷさん。
これからも何度でも食べられると思っていた味。
次男が少し大きくなったら、また顔を見せに行こうと思っていたんです。

コロナ禍での減収、仕込み作業の大変さから、先月末でお店を閉めてしまったそうです。

当たり前ですが、私が好きなだけじゃ、お店は続かないんですよね。
好きなお店が畳まれることはこれが初めてではないけれど、毎回とても切ない気持ちになります。
続けて行くことの難しさ、大変さ。
飲食業だけのことではないですが、「好き」だけでは何ともならないこと、たくさんありますよね。

心の底から、感謝しています。
ごちそうさまでした、では、とても足りないくらいに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?