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ブータンの国会では原稿を読まずに答弁するのが普通です。

ブータンの民主政治は、第4代国王陛下によって人々に与えられた。それは絶対君主制から立憲君主制になった瞬間であった。そして国王自らが各県を周られながら「民主主義の意義とその必要性」を国民に説かれた。人々は涙を流しながら王様に思いとどまる様にお願いしたが、陛下のご意思は固く、笑って、「大丈夫。私はブータンの国民達を信じているから。」とおっしゃり、そのまま王の座を息子に譲り、引退されてしまったのである。

それから当時皇太子であられた現第5代国王陛下が即位され、新憲法が発布され、そして2008年にブータン初の総選挙が執り行われ、ブータンの民主主義の幕が開けた。ブータンの選挙は基本的に5年毎となる。昨年新しい党が政権を獲得したが、実はブータンでは2008年、2013年、そして昨年の2018年と全て異なる政党が政権を獲得している。ブータンの選挙のユニークさについては機会があれば又書きたいと思うが、今回は現在開かれている国会について少し書いてみたい。

もしブータンで視聴率を調べる事が出来れば、私はかなり面白いデーターが集まると思っていて、ブータンにおける国会の生中継の視聴率は世界一ではないか、と思っている。それほど皆見ているのである。国会中レストランに行けば、テレビがあるところでは結構の割合で国会中継がかかっているし、お店を持っている人は国会中継を見ながらお客さんの相手をしている所が多い。そして家庭でもダラダラとテレビをかけている家がブータンでは普通に多いのだが、それが国会だったりするから、私が引くときがある。

「なんで国会を見ているの?」と試しに尋ねた事が何回かあるのだが、「だって私たちの生活に直接関わってくるでしょ。」とか「これによって国の方針が決定してくるから。」と、最も当たり前且つ賢明な意見が返ってくるから、ブータンは面白い。まっ、これはブータン人の本能的なサバイバルスピリットと私は解釈しているのだが、とても識字率が70%を超えておらず、世界最貧国25か国からやっと数年後に卒業するという国のイメージとは程遠い。

そしてブータンでは75万にしか人口がいないので、その中から選出された47名(下院)プラス25名(上院)の国会議員の中に必ず知っている人がいるから国会を見ている、というのも理由の一つにある。そして、その人たちがどういった発言をするか、どういう姿勢で他人の意見を聴いているかも皆注目しているのである。

従って居眠りなんかは到底出来ない。国会議員の方々は常に自分の家族を始め、有権者の方々が自分を見ているかも知れないという意識が常にある。結構一生懸命メモとかを取っている方々もいる。質問をする人もここが自分をアピールするチャンスであるから真剣である。皆その質問に対する評価が後から親戚やら有権者から伝わってくるのも理解している。

そして事前に質問事項を頂いている大臣たちも答弁が勝負時なのをよくよく理解している。だからブータンの大臣で原稿をひたすら読む人はいないと言っても過言ではない。もちろん参考資料は手元にある。何せ数字を間違えると大変ですから。それでもブータンの大臣方は普通に原稿無しで答弁を行える。

民主主義が始まって11年目。まだまだ素人さがかなり目立つブータンの国会ではあるが、それでも原稿をひたすら読むどこかの国の大臣方とは異なり、この国の国会は見ていてやはり面白いと思う。そしてこれはブータン国民にとってエンターテイメントの一つでもある様に思う。

*ブータンの政治にちょっぴり興味を持ったそこのあなた。学術的な研究論文は宮本万里さんのこちらのリンクをどうぞ!https://www.indas.asafas.kyoto-u.ac.jp/static_indas/wp-content/uploads/pdfs/05-09_miyamoto.pdf
現代ブータンの民主化プロジェクト―「政治的なもの」からの距離をめぐって


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