【勝手におすすめ本➂】シューマン著『音楽と音楽家』

私の独断と好みで選ぶ音楽書を、勝手に紹介するシリーズの第3回。

今回はシューマン著の『音楽と音楽家』です!

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【シューマン著 吉田秀和訳 『音楽と音楽家』; 岩波文庫】

この本は非常に有名なので、
読んだことある方も多いのでは、と思います。

シューマン(1810-1856)は、作曲家としての活動の他に、
音楽評論家としての顔も持っていました。
「新音楽時報」という音楽評論の雑誌に批評文を寄せ、当時の「現代音楽」を紹介し、無名であった作曲家や作品をたくさん世に広めた功績があります。
そこには、ショパン、メンデルスゾーン、ベルリオーズ、ブラームス…などビックネームばかり!

そのシューマンの書いた論評、論文の大部分が収められているのが、この『音楽と音楽家』という本です。


皆さんはシューマンが好きですか?
私は、シューマンが大好きなのですが(^^;

シューマンがちょっと変わった人だとは前からうっすら思っていましたが、
学生の頃にこの本を読んだら
あまりに変わっているのでドン引きしました。(失礼!)

シューマンは、明るく積極的なキャラクターの「フロレスタン」と
内向的な「オイゼビウス」、その二人を取りなす「ラロー先生」という架空のキャラクターを作り上げ、(ちなみにこの3人はダヴィット同盟という関係を結んでいるそう)
この人物たちが喋っているスタイルで、論評を書いたのです。
そのスタイルで書くのはそのうち辞めてしまいますが、何しろこの本の初めの方はこんなのばっかりなので、初めて読む人はビックリしちゃうかもしれません。

しかし、読んでいくと次第にこの本の魅力にとりつかれます。
シューマンが本当に心から真剣に思っているだろうことが、熱く伝わってくるのです。
だいたい他の作曲家のことを褒めるなんて、
同業者なんだからいろいろ思うことはあるだろうに、
率直に「いいものはいい!」と言えるシューマンが素晴らしいと思います。

…やっぱりこの人好きだなぁ(^^)


もちろん、シューマンに関して、またこの時代の音楽を理解するにも必読の本ですが、
一応このページは「楽典やり直し講座」なので、
音楽理論、また広い意味でソルフェージュも含めた見地からこの本の魅力に迫っていこうと思います。

音楽の座右銘

シューマンが書いた論評、論文の中で最も有名なのはこれかもしれません。
「ユーゲントアルバム」(1849年)の楽譜に付けられていたものです。※注

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「音楽」をやるにあたって、こんなことをしなさい、ということが
それはたくさん書かれているのですが、
およそ170年前に書かれた文章とは思えないほど、
今の私たちの心にスッと入ってくる内容です。

一番大切なことは、耳(聴音)をつくること。小さいときから、調性や音がわかるように努力すること。鐘、窓ガラス、郭公、―何でもよい、どんな音符に当る音をだしているか、しらべてみること。―
(前掲書 p.230)

もう全てにおいて戒めの機会を与えてくれる名言ばかりですが、

理論やソルフェージュ的観点から見てみると、
普段の生活から聴く「耳」を育てたり、作品研究することの重要さを説いています。

例えば、
・合唱を熱心にやって、中声部を歌いなさい
・小さい時から調性や音がわかるように、和声学もやるように、指揮法を知っておくように
・楽器の助けなしに譜面を見て歌えるように
・形式がわかって初めて精神がはっきりわかる
など

あげだしたらキリがありませんが、
シューマンがこう言っているんだったら間違いないだろう、という気になってきます。

最後に、
「勉強には終わりがない」と締めくくられる論文です。
その通り!(^^;



※注
ユーゲントアルバムの譜面の初めにも載せて出版されています。
私が持っているのは
『シューマン ユーゲントアルバム』全音楽譜出版社
「音楽で心得ておくべきこと」というタイトルで載っていました。(p.4)


作品をどうみるか

もう一つ、ここで紹介したいのは、
作品を見るポイントについてです。

シューマンはベルリオーズの『幻想交響曲』を論文で紹介しているのですが、的確、しかも読んでいて面白い分析をしていて、
初めて読んだときは、こんな風にアナリーゼ(楽曲分析)してみたいなぁと私のアナリーゼ観がすっかり変わりました。

実際にこんなところが、という具体的な例は長くなるのでここで書きませんが、興味のある方は、ぜひこの本と、「幻想~」のスコアと、音源を用意して研究してみてください。こういうの探すのってすごく楽しいですよ!

この論文の冒頭で、作品を観察する場合には普通どこをみるか、ということを書いていますが、基本的なことなので紹介しておきます。

形式(全体、各楽章、楽段、楽句の形式)
音楽的構成(和声、旋律、楽節、仕上げ、様式)
芸術家の表現しようとした特殊な観念
および以上の形式、素材、観念を支配する精神
(前掲書 p.50)

アナリーゼが、形式や和声分析にとどまらず、さまざまな観点から見て、しかもそれが相互に補足しあって初めて作品を観察できる、ということは、わかっているようでいてわかっていなかったかもしれません。

論文最後の方はシューマン節が出てきてしまって、分析でもなんでもなくなりますが、シューマンがとても興奮してこの曲をオススメしてきているのがよく伝わってきます。

まとめ

今回記事にするにあたって、久しぶりにこの本を読み返しましたが、
先週のヒンデミットと同じく、今の時代に読んでも「鮮やか」という印象です。

シューマンの想いがすぐここまで受け取れるという感じ。

最後にブラームスとあった時の論文があるのですが(前掲書 p.241「新しき道」)、その時の興奮の様子を読んでジーンとしてしまいました。

いつも誠実、自分に正直、熱い精神のシューマン。
やっぱり好きだなぁ(^^)

最後にまとめますが、
この本をオススメするのは、
・音楽やっているすべての方へ
・シューマンが好きな方、ドイツロマンが好きな方
・読書が好きな方、考えることが好きな方
かな、と思います。

私も一生大事にしていきた本です。


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