【勝手におすすめ本②】ヒンデミット著『音楽家の基礎練習』

私の独断と好みで選ぶ音楽書を、勝手に紹介するシリーズの第2回。

今回はヒンデミット著の『音楽家の基礎練習』です!


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【パウル・ヒンデミット著  坂本良隆・千蔵八郎 共訳  新訂『音楽家の基礎練習』;音楽之友社】

この本は、作曲家のヒンデミットが1946年に書いた"Elementary Training for Musician" という本の訳書で、随分と歴史のある本です。私が持っているのは、新訂のもので、1976年の版。その後、新装版が1998年に発行されたようです。
ネットで検索する限り、新品も手に入るようですが、中古本としても数百円でたくさん出ています!笑

調べたついでにいろいろ見ていたら、これを大学の授業で使った、とか使っている、とかというコメントをいくつか見かけたので、音大の授業用として使用した人もいるようですね。


この本の特徴、特色

この本はタイトル通り、音楽家になる人、またなりたい人のための基礎練習課題の本なのですが、
特色としては、楽典を交えながら、それに関する〔A. リズム活動 B. 音高活動 C. 総合活動 〕の3種類の訓練をし、さらに書き取りも同時進行する!というところだと思います。
要するに、楽典、聴音、ソルフェージュ、リズム練習全部を分離した教科にせずにまとめて行う、ということです。


私がこの本に惹かれたのは、私自身も自分が音楽を学んでいく中で、また教えていく中でヒンデミットが感じていた問題と同じことを思っていたからです。

ソルフェージュに関しては、以前感じていることを書きました。

(「音楽的」な表現はソルフェージュ、読譜の方法によってより身に付くのでは、のようなことを書いた過去記事↓↓
ソルフェージュと私① https://note.com/rie_matsui/n/n7d479520cfa8
ソルフェージュと私② https://note.com/rie_matsui/n/nf51e521f2500  )


和声に関して言えば、今のところ教えていると、
私は理解や習得には2つのポイントで差が出てくると感じています。

一つは、自分の中で音が鳴るか。(内的聴感)
心の耳を鍛えているか。鳴る人の方が和声にすんなり入っていけます。

もう一つは、楽典の基礎を表面的に勉強しただけで和声の授業を受けた場合。特に多いのが、受験で楽典を勉強する時に、先生に「黄色い楽典の本(「楽典 理論と実習」)の第4章(音程)から読みなさい。自分でやってわからないことがあったら、質問してね。」と言われている例です。(実は私もそうでした)

このような、入試やテストの合格目的で、与えられたことだけ深く考えずにやっただけのレベルでは、和声は理解できません。そんなに簡単なものではないのです。

このような問題も、ヒンデミットはこの本の「まえがき」で痛烈に書いています笑
今も昔も、国も関係なく、音楽教育の現状が変わっていないことには驚きます。

 和声の講義を聴講にくる学生は、一般に、音楽における基本的な原理――リズム、拍子、音程、音階、記譜法など――と、その正しい応用とについての訓練が十分にできていない。教師は和声学の講義にあたって、学生が、それをきずき上げるべき確固とした基盤を持たない事実に、いつも直面しなければならないのである。多少の例外はあろうが、そのような基本的な原理を教える方法が、不満足な状態にあるということにはまちがいない。
大部分の音楽家は、知っている限りの「より実用的な知識」を、ただ漠然と切り売りしているにすぎないし、そうでない人たちにしても、「基礎訓練」に含まれる課程を実行しているものの、多くは、そのときどきの思いつきを行っているにすぎない。
また、音楽の書き取りを実習させることによって、初期の音楽教育の不十分さから生まれたギャップの穴埋めをはかろうとする消極的な方法では、真に基礎となる知識を得ることはできない。

(「まえがき」より)


上は「まえがき」の冒頭なのですが、こんな様子で8ページも(!!)熱い文章が書かれています。

そして、「基礎訓練は理論とつきまぜて実施するのが良い」とのことで、この後ヒンデミットのオリジナル練習問題が続きます。


問題は個性的、かつ結構難しいです。

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この本をどう使うか、オススメしたい人

上の写真の通り、難しい問題もたくさん出てきますが、
ヒンデミット自身は、「この本の最初の3分の2ができないような人は、和声の講義を聴講する資格はないと思う。」(前掲書p.8)とバッサリ!( ゚Д゚)
ですから、我こそは音楽家と思う方はぜひともチャレンジしたら良いと思います。

それよりなにより、私はこの冒頭の「まえがき」、そして第2部の前の「まえがき」、途中にあるもう小論文と言ってよいほどの文章を読むだけでもこの本には価値があると思っています。「楽典とは」「ソルフェージュとは」、その真の目的とは、理論の本質と教育に関するヒントがいっぱいです。74年前に書かれた本とは思えないほど、今の時代に読んでも鮮やかです。

なので、私からは、
・音楽教育の現場にいらっしゃる方の、集団授業やレッスンの教材のヒントとして。
・また、受験ソルフェージュのようなものでなく、音楽の基礎能力を伸ばしていきたい方、そういうのを経験してみたい方。(独学より、先生がいるとなお良し。)
・「楽典とは」「ソルフェージュ」とはなんだろう、と常日頃思っている方へ。
オススメします!!


どうしても、時間もお金も足りず、楽典ソルフェージュは優先順位低め、後回しになりがちで、
先ほど引用文の中にありましたが、ヒンデミットは、そのような教育を『知っている限りの「より実用的な知識」を、ただ漠然と切り売りしているにすぎない』という表現をしています。

受験に間に合わせた勉強も、「漠然と切り売りしている」教育なのでしょうけど、これが、もし教える側が「漠然と」していなかったら、きちっとした基礎的知識を持っていたら、受験勉強のような切り売り教育も、「漠然」とせず、内容が充実してくると思うのです。

特に、この訓練は何のためにやっているのか、どういうときに使うのか、目的をはっきりと把握しておくことは教える時に必須です。
私も、何度もこの本に立ち返って楽典ソルフェージュと向き合う機会を意識的に作っています。ぜひ、読んでみてください!


質問、感想、ご意見、こんなこと取り上げてほしい!などのリクエストありましたらお気軽にコメントください。
なお、ある程度の知識がある方に向けて書いていますので、これじゃついていけない、という方は、ぜひ個別レッスンに!その人にあったレベルで解説します。(対面、オンラインどちらもあり)
レッスンご希望の方はrie3_e_mail@nethome.ne.jpまで。


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