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日記『夜深人静』

中秋の名月、8年ぶりに名月が満月となるらしい。

9月後半、少しずつ夜が肌寒くなっていき、夜出かけるのにノースリーブだと外出にタイムリミットが生じてしまうような季節に、私は毎年あえてノースリーブのワンピースを着て、鍵とスマホ、イヤホンだけ持って深夜を徘徊する。タイムリミット付きの、秋を最大限楽しむための装備である。とある音声を聴きながら、暖かい飲み物を飲み、当てもなく歩いて、適当なベンチに腰掛けて月を楽しむ。いろいろなことを考えながら、時に頭を空っぽにしてただ月を眺める、秋のたった一人の催しである。

今年の月はとても綺麗だったので、写真を撮ろうとふと思いつく。スマホのカメラを起動し、月にピントを合わせても肉眼で見るような綺麗なものは画面には表れない。思えばこの一連の行動は毎年やっているような気がする、わかっていて確認するかのようにやっているのだろう。もちろん撮影技術云々の問題もあるのは承知だが、自分の肉眼で見る月が一番好きで、それが刹那的なものだから魅力を感じるのかもしれない。

私はひとりが好きな人間だ。秋の夜長は人恋しくなるなんてよく言うものだが、孤独を楽しむのに最適な季節だと私も思う。ホットミルクを作ってベランダから夜空を眺めながら考え事をしたり、こうやって深夜の散歩をしたり、そうやってこの季節を満喫している。

【夜深人静】夜が更けて、人が寝静まり、ひっそりとするさま。丑三つどきの静けさ。

2021/9/21