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東北チャリンコ旅1日目 東京ー奥日光

 旅は埼玉県の久喜駅から始まった。自宅のある三軒茶屋から地下鉄に乗ると終点は久喜。実は今回乗っていく自転車もメルカリで買い、久喜で引き取った。都内は信号が多く走りづらいため、そこまでは自転車を運んでスタートすることにしようと思っていた。
 都心から40kmほど北になるので、「東京から自転車できました」と言うには語弊が出てきてしまうかもしれない。が、1日目は日光の先まではいかなければならない計画だったため、致し方なかった。

 大学時代自転車を買って、東京から北軽井沢まで行ったことはあった。その時の道のりは2日間で140kmほどだった。間に碓氷峠と中軽井沢から北軽井沢に抜ける大きな峠があるとはいえ、距離的には短い。今回の最終目的地は盛岡。600km先の遥か彼方まで辿り着けるのかと、出発前夜はほとんど眠れなかった。

 当時乗り回していた自転車は、10年前に外出先で盗まれてしまった。苦労して買った物が盗まれると、自暴自棄になってやる気を無くし、道具類全てを売っ払って、ロードバイク乗りはやめてしまっていた。唯一ビンディングペダル用の靴だけは実家にあった。
 今回少し暇ができたからということで、思いついたように自転車を買って乗るのだから、トレーニングなど何もしていない。言ってみればぶっつけ本番。10年ぶりに自転車での旅に出るという無謀な挑戦だった。

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 3月15日の朝は寒の戻りで、天気はよかったものの寒かった。前日14日は都心でも雪が降るという珍しい天気。暖冬と言われていながら、ここにきて急激に寒い日がくるとは…。
 朝8時半、久喜を出発して1時間ほどで利根川に到着。いよいよ旅が始まった気がした。走りながらサイクルメーターをのぞくと時速25km〜28kmを指している。なかなか快調な走りだしだ。「このペースで行けば、日光には1時にはつけるな」と思いながら、国道から農道に進路を変えて走る。道端には菜の花。前方に目をやれば青空と白い雲。風の冷たさに「春はなのみの風の寒さや」と童謡の一節を口づさみながら、走っていった。
 しかし普段全然走っていないとなると体がすぐに重く感じるようになってきた。特に陸橋を越える時など、ヒーコラいいながら登り、降りることを繰り返す。「1日の目標は140km」などと息を巻いていたのに、休み休み30kmほど進んで早くも限界を感じ始めた。気持ちは大学生のままでも、身体は確実に10年経っている。小山市まできたところで、道の駅にたまたま行き当たり、朝から何も食べていなかったので、ここで食事をとることにした。

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「道の駅 思川」〔藤ヱ門〕
名物は『肉うどん』ということで、頼んでみると大きなザルに、どかっと乗ったコシのあるうどん。ツユには油揚げやネギが豪快に放り込まれ、大きなお椀で出てきた。

 栃木市を抜け、日光に向かう道は徐々に上り勾配になっていて、ボディーブローのように足にくる道のりだった。特に栃木県鹿沼市から黒川にかかる御成橋を越えると、急に上りがきつくなってくる。
 ここからの日光街道は道の両端に杉並木が続き、江戸時代の街道の雰囲気をそのまま残している。しかし、路面は荒れ放題で、チャリンカーには本当にしんどい道のりだった。さらに路肩がなく狭い道でありながらも、交通量が多い。「こんなに交通量多いなら、道をもう少し整備したらどうなんだ?」と身勝手にも思ってしまう。徐々に上っているだけに苦しさを何倍にも感じる道のりだった。結局日光に着いたのは15時30分。予定よりも2時間遅れ。

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 翌日会津若松に着こうと思うと、さらに進んでおかなければならない。
とにかく行けるところまで行ってみようと思い、鬼怒川沿いを走ることにした。
宿泊はどこかの駅で野宿と決めていたので、この先の温泉にしようと思った。鬼怒川温泉は手前すぎるので「川治温泉まではなんとか行ってみよう」そう決めて、日光からもう20km走ることにした。

 マクドナルドでコーラとハンバーガーを口にし、45分の休憩の後出発した。雲行きがだんだん怪しくなってきていたので、カッパを着込み出発。走り出すとポツリポツリと雨が降ってきた。
 鬼怒川はむき出しになった岩肌に、清流が流れ、自然の造形美を生み出していた。しかし、その自然の造形物の上に所狭しに並ぶ旅館を目の当たりにすると、身体に人工物を無理やりねじ込まれたような痛たましさを感じた。「これほど美しい渓谷にどうして、こんなにも無機質な建物が並んでいるのか?」。おそらく、かつては多くの人が訪れていたに違いないが、今は廃屋となっている旅館もあり、虚しい情景があった。「もう少し自然を大切にしながら、開発ができなかったのか」と思ってしまう。

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結局、日が暮れて暗くなった18時頃に川治温泉にたどり着いた。
Google Mapを見ると、「薬師の湯」という日帰り入浴施設があると出ている。「今日はここに入って寝るか」と思い、案内にしたがって走ってみた。しかし行けども、行けども案内はあっても温泉施設など出てこない。「へんだなあ」と思いつつ、川縁を上がったり下がったりしながら、谷をぐるっと回るようにして走ると、真っ暗な中にようやく探し出すことができた。けれども着いた施設の扉には「機械の故障のため臨時休業」と貼ってある。
「なんだこれは!これだけ走り回らせておいて、この仕打ち!」と怒りがこみ上げてきたが、旅はこんなもんかとも諦めがつき、他の温泉施設を探すことにした。次の候補は伊藤園ホテルが日帰り入浴をしていると出ているので電話してみた。
受話器をとったお姉さんは快く「日帰り入浴ですね、やっておりますよ」とのことだったので、行ってみた。が、建物は真っ暗。もう一度電話すると「今日だったんですね、来週かと思いました。コロナの影響でしばらく休館にしています…」。あたりは暗闇に覆われ、雪が猛烈に降り始めていた。

 今日は風呂なしかなと思い、今一度Google Mapを開く。すると次の駅「湯西川温泉」にも温泉施設があることがわかった。今度は慎重に「あの、今日はお風呂やってますか?」と聞くと、「9時までやってますよ。9時に出てもらわなければならないので、8時までには入ってくださいね」と返事があった。念願の風呂に入れると思うと急に力が湧いてきて、暗闇の山道を飛ばした。

 19時半頃、湯西川温泉に到着。大人510円の入浴料を払って入ることができた。この温泉とても良い温泉で、源泉掛け流し。硫黄の香りがプーンと香る。雪の降る中走ってきて、かじかんでいた手足を、湯煙がわく湯船が体の芯まで温めてくれた。
 この日はこの駅で宿泊。23時にはすべての電気が消えて、真っ暗闇に包まれた。外は吹雪翌日の路面が心配された。

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湯西川温泉〔湯の郷〕
〒321-2603 日光市西川478-1
(野岩鉄道湯西川温泉駅となり)TEL. 0288-78-1222 
http://www.michinoeki-yunishigawa.jp/
《営業時間》
温泉・岩盤浴 : 9:30 ~ 21:00 (最終受付 20:00、岩盤浴の最終受付19:00)
足湯 : 9:00 ~ 17:00
《利用料》 
大人510円・小学生250円・幼児無料、 回数券4,100円(10枚つづり)
足湯 : 無料


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