マガジンのカバー画像

七人姉妹

10
運営しているクリエイター

記事一覧

クリティカル・マスと帰還

クリティカル・マスと帰還

 その日は昼から突然の大雨が降って、夕方に止み、プロジェクトの集まりが始まる頃に大火事が起きているのかと目を疑うような夕焼けが出ていた。

「そうではないかと感じていることを、思い込みや願いによって否定したり保留することは、本来辛い状態です」

 マタは話を前置きもなく始めた。

「批判ではなく、思いやりとして最後に大切なメッセージを伝えます」

 マタは少し悲しそうな眼をして私たちを見回した。

もっとみる
異星人のほほ笑み

異星人のほほ笑み

 タウリの仲間がほほ笑みながら話し始めた。

「私たちは血のつながりはありませんが、二人が幼いころからたくさんの時間を共に過ごしています。私たちは7人で地球に来ました。地球に来てから自転600回くらいです。地球の単位で2年近くということでしょうか。他の5人はアジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカなどで同じように地球人に会って私たちの星の話をしています。私はオセアニアを担当していました。クリティ

もっとみる
目的と仲間とコミュニケーション

目的と仲間とコミュニケーション

 タウリは初めて1人仲間を連れてプロジェクトの集まりに来ていた。私たちはタウリとその仲間を見て初めて彼らの見かけの特徴を感じた。それは私たち地球人と違うという傾向が二人以上いることで顕著になったものだった。顔の特徴はライオンやピューマなどの大型のネコ科の動物に似ている。鼻筋が太い印象だ。眉間から鼻先まで高く太い。背が高い。漂う雰囲気は非常に柔らかいが、意志の固そうな印象を受ける。

 私は手を挙げ

もっとみる
個と集団

個と集団

「前回、メリットということを話されていました。このことに関して質問があります」

 メンバーが最初に手を上げて質問を始めた。

「メリットというか、ベネフィットというか、それは公共と個人の間で常に対立するものであると思うのです。集団は規律と滅私や無欲を求めますし、個人は承認と自由と自己実現を求めます。このバランスをあなたの星ではどのようにとっているのでしょうか?個と集団はいつもその利益を争うものと

もっとみる
6番目の感覚器官

6番目の感覚器官

 タウリが「では、実際にやってみましょう」と言い、私たちはエネルギーでのコミュニケーションをやってみることにした。

「みなさん、目を瞑ってください」

 私は言われるまま目を閉じた。

「何か感じたら手を上げて、目を開けてください。感じなければじっとしていてください。気のせいかなと自信がない時は肘を曲げて手を上げます。自信がある時は肘を伸ばして手を上げます。いいですね?」

 しばらく何も感じな

もっとみる
テレパシー

テレパシー

ある時私たちはタウリとエネルギーによるコミュニケーションのことについて聞いた。

「私たちの星では、言葉より感じたエネルギーの方に重きを置きます。言葉がエネルギーと違うときは嘘をついたということですから、お互いに見逃したりしません。嘘は本人にとっても、周囲にとってもよくないからです。嘘ではなく、迷いの時点で気がつきます」

「前にも聞いたと思うのですが、エネルギーがわかるのであれば、言葉を使う必要

もっとみる
悪意のない星

悪意のない星

「この星に来て一番びっくりしたことを話したいと思います」

 タウリは少し考えてから、言葉を絞り出すように一語一語考えながら話し始めた。

「これは批判として受け取る地球人が多いので、どう説明したらいいか難しいのですが……、地球人には明らかな、何というか、悪意と感じられるエネルギーを、他人に、自分以外の人に、簡単にぶつける人がですね、……言いにくいですが、わりとたくさん、皆さんが思っている以上に、

もっとみる
平等についての話

平等についての話

「私たちの星では」

 彼女の話が始まる。

「固定された値の平等を目指しません。それが不可能であることを認識しているからです。例えば、胃腸の働きの強い人と弱い人が同じ量を食べることを目指さないのと同じです。目指すのは、個々人の満足です。それは、量や見た目などの外側に基準を置くことができず、個々人の体質や信念や体調などに常に左右されて定点としての値を持つことはありません。同じ個人であっても時間によ

もっとみる
プロジェクトの始まり

プロジェクトの始まり

 プロジェクトは単純なものだった。彼女の星の話を聞くだけ。それだけだった。
 彼女には少人数で数ヶ月にわたって繰り返し会い、質問を度々挟みながら理解を深めていった。

「初めに理解してほしいのは、私たちの星では優劣というのが何を目的としたときに優れているのかということしか表さないということです。これは非常に重要な世界の捉え方です。度々私は説明のために比較をしますが、それはいつでもこのプロジェクトの

もっとみる
来訪者

来訪者

 知り合いを通じて私が彼女に会ったのは去年の夏だった。ウィルスの蔓延で人々の中に不安が渦巻いている中だった。彼女は非常に背が高く色白で細身だった。あまり汗をかいている風でもなく、酷暑にも涼しげな顔で公園のベンチに腰かけていた。背が高い割には目立たず、何というか、気配というものが薄い人だった。

 しかし彼女の話は衝撃的なものだった。

「優劣というものを固定された尺度と考えるのは地球人の特徴ですね

もっとみる