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【雑文】ミュージカルに見るハイティーンのリアルライフ今昔物語

先日、知人と雑談をしている時、「ティーンエイジャーも後半に差し掛かる子供が、自立しない」という話で盛り上がりました。

高校生くらいのハイティーンの、主に精神面での自立問題。親が関わろうとするとウザがられ、手出ししづらいのに、まだまだ未熟なところもあって、危なっかしい。
物理的にも精神的にも、距離感の取り方が最も難しいのが、ハイティーンの子供達じゃないだろか、と。
同世代の子供を持つ親同士、こういう話は尽きませんわね。

そういえば、海外で制作されるミュージカルって、この自立問題真っ只中の、ハイティーンを主役にした作品が結構あります。
ミュージカルは究極のファンタジーだけど、ハイティーンの子供達の自立問題は、いったいどんな風に描かれているのかなぁ、という事で、今回はミュージカルの世界のハイティーンたちについて、紐解いてみたいと思います。

ハイティーンがメインキャストのミュージカル作品あれこれ

常々不思議に思っているのですが、日本では、ティーンが主役の学園もののドラマや映画は沢山作られているのに、ミュージカル作品はあまり劇場にお目見えしません。

おそらく、最も有名なのは、若手俳優の登竜門と名高い『テニスの王子様』通称「テニミュー」かと思いますが、残念ながら未見。他には、いわゆるキッズミュージカルのジャンルに定番の作品がいくつかあるくらいで、グランドミュージカルのクラスになると、あったっけ???という感じがします。そういえば、先日見た『ポーの一族』の主役エドガーは、ティーンエイジャーといえばそうだけど、200年も生きてるティーン。。。です。ちょっと違うよな。

一方、ブロードウェイやウエストエンドでは、沢山作られています。
日本で上演された作品というと、最近ではジャパンキャストの『The PROM』あたりでしょうか。『ジェイミー』も上演が決定しています。
少し毛色が違うかもしれませんが、『ハリーポッター』も上演が決まっているとか。

映画やドラマなど、映像作品が元の作品の舞台化も沢山あります。少し古めの作品だと『グリース』や『フットルース』、最近の作品だと『キューティーブロンド』も舞台化されています。テレビドラマで有名な『ハイスクールミュージカル』も舞台版がありまして、日本では、高校や大学の演劇部などがよく上演しています。

昨年、中止に追い込まれましたが、ジャパンキャストで上演予定だった『ヘアスプレー』、学園ものではありませんが『ニュージーズ』もハイティーンをフィーチャーした作品。

日本では上演実績がない作品の中にも、高校を舞台にしたミュージカル、『ミーン・ガールズ』や『Dear Evan Hansen』など、ブロードウェイでは大人気の作品は、あげ始めたらキリがない。ティーンエイジャーの中でも、特にハイティーンをメイン据えた作品は、世界のマーケットでは、実に多く作られ、次々とヒットしているのです。

海外のマーケットでは、制作数、上演数、ヒット率、どれを見ても、もうそれだけで1ジャンル確立している感じがします。日本のマーケットとの温度差は一体なんだろう?と思うわけです。
作品に仕立てる事ができるからには、そこになにかドラマティックな要素があるわけですが、海外のハイティーンたちと、彼らを取り巻く環境は、ものすごいドラマチックなのか?

ミュージカルといえばそのエッセンスは曲に込められているのが基本原則ですから、まずはミュージカル曲から、ハイティーンのドラマを見てみたいと思います。

ミュージカルの中のティーンは自立度が高め

Teenagerを取り上げている海外ミュージカルは山ほどあるので、当然の事ながらTeenagerの日常を歌った曲も沢山あります。

例えば王道ミュージカルから、『サウンドオブミュージック』の「Sixteen going on seventeen」。

『サウンドオブミュージック』といえば、「ドレミの歌」や「エーデルワイス」が有名ですが、この曲もどこかで聞いたことあるんじゃないでしょうか。
この曲は、トラップ家の長女リーズルと、電報配達員のロルフが、お互い好き合っていて、こっそり2人きりで会い、ロルフがリーズルをくどく歌です。

You are sixteen going on seventeen
Baby, It’s time to think
Better beware
Be canny and careful
Baby, you’re on the brink 
(中略)
You need someone older and wiser telling you what to do
I am seventeen going on eighteen
I’ll take care of you!

今は16、もうすぐ17
ねぇ、そろそろ考えないといけないよ
かしこくなって
慎重に、注意深くね
そろそろ、年頃なんだからね
(中略)
君をリードしてくれる年上で賢い人間が必要だね
僕は17、もうすぐ18
君の面倒をみるよ!

(Ricky テキトー訳)

ロルフ、随分と人生の先輩ぶって、えらそーですが、まだ17歳かよっ!
リーズルより、ひとつ年上なだけだけど、口説き方が、ずいぶん大人というか、おっさんと言うか。

そりゃ、ロルフは社会人ですけど、やたら上から目線な感じがします。口説き方はなんだかイケすかないけど、政治的な思想もはっきりしているロルフ。世間知らずの箱入り娘のリーズルと比べたら、もう立派に精神的には自立しているのかもしれません。

おっと、ナチスドイツの時代、すなわち1900年代前半じゃ、昔すぎるか。世相が違えばティーンエイジャーの描かれ方が参考にならない。

では、少し時代を現代に近づけてみましょう。

1970年代のティーンエイジャーを描いたミュージカルの代表作といえば、『グリース』。『グリース』で描かれるティーンエイジャーたちはどんな感じでしょうか。

まず、『グリース』という作品には、「親」はキャストとしては出てきません。唯一、ヒロインのサンディーのお父さんが、過保護な父親としてセリフに出てきます。どれくらい過保護かと言うと、「エナメルの靴はスカート中が映るといけないから好ましくない」という理由で、買ってくれないパパさん。サンディはかなり鬱陶しがっています。そりゃそうだ。
そのお父さんが、サンディの生活に与える最大の影響が、引越し。
サンディはお父さんの仕事の都合で、転校や引っ越しを余儀なくされています。
キャストとして出てくる大人は、「理解のない先生」と、「理解のない先生に忖度する理解のある先生」です。
つまり、ざっくり言うと大人は「理解のない存在」として描かれています。

そんな『グリース』に出てくるハイティーンたちの「自立」状況が垣間見れる曲はこちら。

この曲は、すごーく不思議な演出で歌われます。気になる方は、是非とも映画版でご覧頂ければと思いますが、『グリース』いちの不思議ちゃん、フレンチーの脳内の思考を歌った歌です。フレンチーはサンディの友人で、美容学校へ行くと言って、高校を中退したのに、美容学校でも出来が悪くて、中退してしまいます。この局面でも親は出てきません。つまり、すっとぼけの不思議ちゃんフレンチーですら自問自答して、解決します。

Your futures so unclear now 
What's left of your career now 
(中略)
If you go for your diploma you will join a steno pool
Turn in your teasin comb and go back to high school

将来の事がわからない
この先のキャリアはどうなるの?
(中略)
卒業証書が欲しいなら ダサい世界に戻るのね
美容師のコームはしまって、ハイスクールに戻りなさい

(Ricky テキトー訳)

はい解決。
回り道はしたけど、ちゃんと軌道修正できました。ちなみに、(中略)の部分では、美容学校での失敗の数々が歌われています。
「そんな美容師絶対やだー」のオンパレードで、とても楽しいナンバーです。

というわけで、ヤンキーのお話というのもあるけど、グリースの高校生たちは、なんでも自ら解決するのです。親の存在感、うすっ!

あら、まだまだ時代が昔過ぎる?では、2000年代に入るとどうなるでしょうか。

ミュージカル界No.1の「こじらせハイティーン」

2000年代に入ると、ハイティーンをメインにした作品が次々ヒットするようになり、量産されるようになりました。

その中から、先日、日本でもジャパンキャストで上演されたばかりの『the PROM』という作品を取り上げてみたいと思います。

プロムとは、主に北米の高校で開催される、卒業式前のフォーマルなダンスパーティーの事です。高校生にとっては、高校卒業を目前に控え、大人の階段の扉を開けるのがまさにこのイベント。男子はタキシードで、カクテルドレスの女子をエスコートして参加します。エスコート、するのもされるのも、殆どの子たちはピカピカの初心者マーク。まさにこのプロムが、社会的に大人としての「デビュー」になるわけです。

ミュージカル『the PROM』は、アメリカの保守的な田舎町の高校で、プロムにカップルとして参加したいレズビアンの女子高生と、それを阻止しようとする大人と、後押しするふりをしながら、自分勝手な野望丸出しの大人たちの物語です。
主人公のカップルのひとりアリッサは、絵に描いたような優等生。アリッサを女手一つで育てているママは、PTA会長という、まさにスクールカーストのトップに君臨している生徒なのですが、レズビアンである事を隠して生きています。

そんなアリッサが、自分とママの事を歌ったナンバーがその名も「Alyssa Green」です。この作品は、Netflixでもドラマ版が放送されていますが、敢えて舞台版の動画でどうぞ。画質は良くないですが。。。

アリッサ・グリーンという人は、とにかくママに何もかもコントロールされている人です。
髪の長さから、体重から、部活選びから、夏休みは聖書を読むキャンプに参加し、清く正しく生きよ、とママの支配下で完璧な優等生として生きています。
18歳で高校を卒業するまでに、完璧たれ!と育てられています。
あまり多くは描かれませんが、おそらくママは苦労人で、今は、それなりに社会的に成功している。娘には、出来るだけ苦労せずに無難に成功して欲しいと願うあまり、過干渉になる典型のような人です。

そんなアリッサは期待に応えようと頑張ってはいるのですが、レズビアンである事は、母の望む優等生としては、ダメなんだと悩みます。その心情をこんなふうに歌います。

You’re not yourself
You’re not what she wants
You’re someone in between
Your whole life’s a lie
When you’re Alyssa Greene

自分じゃない
ママの望む子でもない
その中間のだれか
アリッサグリーンの人生は全てが幻なんだ

(Ricky テキトー訳)

自己肯定感のカケラもない。ママの過干渉のあまり、見事にアイデンティティ崩壊中です。
ママから自立したいけど、ママの愛もわかるし、なによりママに認めてもらいたい。どうしようもなくてもがいています。
2000年代のハイティーン、いい子になった分、自立できてない。闇が深いぞ。

その他の21世紀型ハイティーンたち

今世紀に入って製作された他の作品に目を向けて見ると、例えば、ハイティーンを描いたミュージカルの最高傑作と名高い『ハイスクールミュージカル』では、メインキャラクターの親はキャストとして出ては来ますが、芝居のシーンのみで、歌には一切絡んできません。
主役のトロイのお父さんは、トロイの部活の顧問でもあり、公私共にトロイは頭の上がらない相手で、進学に際しても、色々と口を出してもきます。
でも、トロイは、結局は彼女であるガブリエラとの未来を見据えて進学先を決める。
パパにも納得の結末ではあるけど、まぁ、パパの事などこれっぽっちもも考えてはいないのです。出番が多いわりに、影響力は薄めのパパさんです。

女子高生のドロドロを描いた二代巨塔といえば、アメリカのチアリーダーのスクールカーストを描いた大ヒットミュージカル『Bring It On!』と、転校生をめぐるスクールカーストを描いた『ミーン・ガールズ』。この2作品においても、メインキャラクターたちは、人間関係的に結構シビアな状況に追い込まれたりしますが、自分たちで解決していきます。

なんだ、みんなめっちゃ自立してるじゃないか!
もう親の出る幕じゃないのか?

2000年代に入り、現在に近くなればなるほど、ミュージカルの世界でも、SNSなど、コミュニケーションのあり方が変わってきていて、良くも悪くも、子供達は自分たちだけの閉じた世界に生きるストーリーが増えています。
『グリース』の頃と比べると、恋愛以外の人間関係の問題は複雑になっていて、解決策も決して単純ではない。さらに、進学の問題、性認識の問題など、様々なテーマをストーリーに織り込んでいます。
どんどんややこしい事になって、よりドラマチックになっていて、エンターテイメントとしては面白さは増しているのは間違いありません。一方で、入れ込む要素が多すぎて、親子関係まで触れてもらえないのかも?という気もします。

で、そうなると子供達は、自分達で問題を解決してしまいます。

人間関係の問題を、自分たちの閉じた世界で解決していくストーリーは、すでにキャラクターがある程度自立していないと成り立たない。というわけで、昨今の現代劇のミュージカルで描かれるハイティーンたちは、拗れ度も、自立度も、問題解決能力もどんどんレベルアップしています。だから、その成長過程を描くだけで、ドラマを作る事が可能になっているのだと思います。

しかし、ミュージカルの世界のハイティーンたち、どうしてこんなに自立が進んでいるの?
欧米では、当たり前のペースなのか?
日本の、自立できないハイティーンたちを持つ親にとっては、まったく参考にならないのか。。

若者の自立ミュージカルの金字塔『ピピン』

若者をどうやって自立させたらいいのか、ミュージカルから学ぶなら、外せない作品と言えば、誰がなんと言おうと『PIPPIN』だと思います。

日本では、ブロードウェイキャストでも、ジャパンキャストでも上演されている作品ですが、そこまで大ヒットで話題をさらった!というほどでもなかった印象です。

『PIPPIN』は、ブロードウェイミュージカルの中でも、かなり古いクラシックと言える作品で、曲は巨匠シュワルツが若かりし頃、なんと70年代に書いています。もちろん初演当時にトニー賞を受賞。2013年版は、トニー賞の再演賞も受賞しており、ブロードウェイでは高く評価されている作品です。

とにかく楽曲がおしゃれ。今聴いても、クラシックな作品とは思えない不思議な世界観。アクロバットのような、サーカスのようなアーティストがたくさん出演していて、さまざまなパフォーマンスを取り入れた演出も特徴です。

ストーリーは、世間知らずの王子様が、自分探しをする物語です。ストーリー全体を通して、脳内お花畑だった王子ピピンが、自分の行くべき道を見つけ、自立していくストーリーです。

ジャパンキャストの冒頭の部分がこちらの動画ですが、城田優さん演じるピピン、「世の中舐めきってるおぼっちゃまな感じ」がよく出てます。全力で褒めてます!本当に上手いなあと思う。

この、お花畑ぼっちゃまピピンが、家族、王位、戦争、暴力、芸術、宗教。。。人をエキサイトさせる出来事に次々と出逢いながら、どれも自分を幸せにしてくれないと嘆きます。そして、最後には、本当の幸せとは、ささやかでも、愛情に包まれていることなんだ、と気づく。いったいその間になにしたの?と気になるところであります。

実は、劇中劇のような仕立てで、王子ピピンは、擬似にしろ、実際に体験をしていくのです。
そして、その度に、期待し、苦悶し、絶望を繰り返す。世間知らずのおぼっちゃまは、素直で真面目で、一生懸命なのが取り柄。
なのに、自分の求めている「充実感」「生きがい」が得られるものに出会えない事の連続をたっぷり2時間見せてくれるのが、『PIPPN』と言う作品なのです。

観ている方は、イライラもやもやするんですけど、あぁでも、自分もこうだったなと。
戦地で戦ったり、宗教にハマったりなんて事は経験してないけれど、そこまでドラマティックでなくても、やはりいろんな経験をして、失敗をして、成功もして、やがて、自分の頭で考える力がついて、ようやく今の自分が形成されてるんだな、などど思いながら見てると、最後のオチが。。。ね(そこは、実際にご覧になって頂ければと思います。)

おわりに

なぜ日本発で、ティーンをフィーチャーした舞台作品が作られないんだろ?というのは長年の疑問でした。
ドラマや映画はたくさんあるけど、なぜ舞台はないの???と。

昨夏、舞台が再開してから、劇場に足を運ぶたびに、観客席の平均年齢がぐっと若くなっていることに驚かされます。
平日マチネは特に顕著で、おばあちゃんおじいちゃんが多かったのが、若い人が確実に増えて、席が埋まっている。

働き方が多様化し、ライフスタイルや価値観も多様化する中で、劇場に足を運ぶことを躊躇する人たちが増えた一方で、その空いた席を確実に誰かが埋めています。
明らかに、マーケットの様相が変わってきている。

若い世代の心に刺さる演目が、まだまだ少ないから、どの公演も飛ぶようにチケットが売れています。

また、世界に先駆けて、エンタメが再開した日本には、世界中から人やお金が流入していて、「欧米発の作品をジャパンキャストで」というムーブメントが、一気に来ています。
日本のエンタメが、わずかながらかもしれないけど、海外のクリエーター達に雇用を生み出しているという前代未聞の状況です。

その流れの中で、ハイティーンをメインにした作品が次々とやってきていて、今年来年は、このジャンルが台風の目になるんじゃないかとワクワクしています。
ここは、今まで、日本になかったマーケットです。劇場の客層が変化し、社会も変化している今、エンタメも変化している。
困難な世相だと、保守的になりそうなもんだけど、マンネリに甘んじる事なく、むしろ攻めてくるプロモーターが多くて、本当に嬉しく思っています。

こういった作品なら、修学旅行とかでなく、若い世代が自分から生の舞台に触れるきっかけになりやすい。観れば、何かに気づいたり、元気になったりして、きっと生のエンタメのファンが増えて行くんじゃないかと思います。そうやって育った世代が、やがて、心豊かな大人になり、また子供の世代にそういう文化を受け継いでいくサイクルを回す用意になる。お値段的には、若い世代には、なかなか難しい娯楽なのかもしれませんが、もう、マーケットの舵は切られた感じがします。

観劇は、安全で心の健康には欠かせない娯楽を提供してくれる場所。
チケットが取りにくくても、トイレが混雑しても、そりゃ困るけど、でも、たくさんの人に訪れてほしい場所なのです。

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